おかしい。何か間違ってる。
場所はそこそこのレベルのホテルの一室。ベッドは清潔、大人が余裕で二人転がれるサイズ、壁は分厚く防音は完璧。
背中にシーツ、上には半裸の男、こっちも服はあらかた脱いだ。
のしかかってる相手は顔も体もすごぶる好みでキスも美味い。
眼窩を縁取る皴、口元のほうれい線、緩んだ肌が張り付き浮かび上がった首の筋とのど仏、こめかみの生え際に混じる白い髪。鏡の中に見つければため息の原因にしかならないあれこれだが、相手の体に見つけるとあら不思議。
途端に心臓が跳ねる。
どこをどうとっても申し分の無い状況のはずなんだが……
おかしい。何か間違ってる。
さっきっから頭ん中でこの言葉が点滅して、消えない。
振り出しは極めてささいな、ありふれたシチュエーション。ふらりと入った飲み屋のカウンターで隣に座った。タバコを吸おうにも生憎ライターがオイル切れ。火を借りたのをきっかけに言葉を交わし、程なく同好の士と知った。
どちらも独り身、予定は無し。そこからは流れと勢い任せで部屋を取り、ベッドにもつれこんだと言う次第。この手の出会いは貴重だ。四十路も半ばを過ぎれば尚更に。
年はほぼ同じだが多分俺の方が上、身長と体重は向こうが上。加えてモンゴロイドどコーカソイドじゃあ、どうしたって骨格レベルでこっちの方が華奢になる。そんな訳で俺の方が押し倒される形になったんだが……
舌に感じる味に。間近に香る体臭に、血が騒いで収まらない。
おかしい。何か間違ってるってね。
「ん」
思い切って、肩に腕を回して引き寄せる。男と男のセックスは基本、むき出しの本能と本能の食い合いだ。こう言う時、内なる声には逆らっちゃいけない。がっつり唇を食み合わせて舌を差し込み、口内を塞ぐ。気道が狭まり、息苦しくなる直前で隙間を開けた。
「ふぐっ」
彼は眉をしかめて、舌を突き入れてきた。
(待ってた)
逆に俺の中に誘い込み、しゃぶってやった。根元から先端まで舐め上げて、溢れる唾液をすすってやった。別の場所もこうしてやるよと言外に伝えた。
「う……んぅ」
(いい声だ)
舌先を吸いながら唇を離す。目元を赤くして、浅い呼吸を繰り返してる。
「可愛いな」
歯を食いしばってる。おやおや、拗ねちまったかな。
「おっさんに可愛いとか言うなってんだろ? わかるよ」
背けようとする頬に手を当て、くいとこっちを向かせる。潤んだ瞳を見あげて囁いた。
「なぁ。確かに君は魅力的な男だ。抱かれたいと思ったし今も思ってるよ?」
「だったら、大人しく抱かせてくれ」
「駄目だね」
「おい」
背中に手を回し、指先で撫でる。首筋から背骨を辿って撫で下ろす。彼は唇を噛んで目を閉じ、びくりと咽を反らせた。
思った通り、感じやすい。
「不思議な事にね。本能的なものが疼くんだ……君を組み敷いて、足腰立たなくなるまで犯してみたいってね」
目を剥いて見おろしてる。だが睨むと言うにはその表情はあまりに艶めいて、かえってそそる。ベッドに肘をついて半身を起こし、間近に顔を寄せた。
「どうだろう、俺は見当違いな事を言ってるのかな?」
ああ、目をそらせちまったか。だが耳ががら空きだ。耳たぶを唇で挟んでしゃぶり、舌先で突き回す。咽の奥にねじ込まれたうめきが、震動になって伝わってくる。
手を握り合わせ、指を絡める。抱きあったまま体をひねり、位置を入れ替えた。
「っ!」
「嫌なら抵抗しろ。君の方が力はあるんだ。本気で嫌がられたら、俺は敵わない」
握りあった手をシーツに押し付け、伸し掛かる。
場所はそこそこのレベルのホテルの一室。ベッドは清潔、大人が余裕で二人転がれるサイズ、壁は分厚く防音は完璧。
背中にシーツ、上には半裸の男、こっちも服はあらかた脱いだ。
のしかかってる相手は顔も体もすごぶる好みでキスも美味い。
眼窩を縁取る皴、口元のほうれい線、緩んだ肌が張り付き浮かび上がった首の筋とのど仏、こめかみの生え際に混じる白い髪。鏡の中に見つければため息の原因にしかならないあれこれだが、相手の体に見つけるとあら不思議。
途端に心臓が跳ねる。
どこをどうとっても申し分の無い状況のはずなんだが……
おかしい。何か間違ってる。
さっきっから頭ん中でこの言葉が点滅して、消えない。
振り出しは極めてささいな、ありふれたシチュエーション。ふらりと入った飲み屋のカウンターで隣に座った。タバコを吸おうにも生憎ライターがオイル切れ。火を借りたのをきっかけに言葉を交わし、程なく同好の士と知った。
どちらも独り身、予定は無し。そこからは流れと勢い任せで部屋を取り、ベッドにもつれこんだと言う次第。この手の出会いは貴重だ。四十路も半ばを過ぎれば尚更に。
年はほぼ同じだが多分俺の方が上、身長と体重は向こうが上。加えてモンゴロイドどコーカソイドじゃあ、どうしたって骨格レベルでこっちの方が華奢になる。そんな訳で俺の方が押し倒される形になったんだが……
舌に感じる味に。間近に香る体臭に、血が騒いで収まらない。
おかしい。何か間違ってるってね。
「ん」
思い切って、肩に腕を回して引き寄せる。男と男のセックスは基本、むき出しの本能と本能の食い合いだ。こう言う時、内なる声には逆らっちゃいけない。がっつり唇を食み合わせて舌を差し込み、口内を塞ぐ。気道が狭まり、息苦しくなる直前で隙間を開けた。
「ふぐっ」
彼は眉をしかめて、舌を突き入れてきた。
(待ってた)
逆に俺の中に誘い込み、しゃぶってやった。根元から先端まで舐め上げて、溢れる唾液をすすってやった。別の場所もこうしてやるよと言外に伝えた。
「う……んぅ」
(いい声だ)
舌先を吸いながら唇を離す。目元を赤くして、浅い呼吸を繰り返してる。
「可愛いな」
歯を食いしばってる。おやおや、拗ねちまったかな。
「おっさんに可愛いとか言うなってんだろ? わかるよ」
背けようとする頬に手を当て、くいとこっちを向かせる。潤んだ瞳を見あげて囁いた。
「なぁ。確かに君は魅力的な男だ。抱かれたいと思ったし今も思ってるよ?」
「だったら、大人しく抱かせてくれ」
「駄目だね」
「おい」
背中に手を回し、指先で撫でる。首筋から背骨を辿って撫で下ろす。彼は唇を噛んで目を閉じ、びくりと咽を反らせた。
思った通り、感じやすい。
「不思議な事にね。本能的なものが疼くんだ……君を組み敷いて、足腰立たなくなるまで犯してみたいってね」
目を剥いて見おろしてる。だが睨むと言うにはその表情はあまりに艶めいて、かえってそそる。ベッドに肘をついて半身を起こし、間近に顔を寄せた。
「どうだろう、俺は見当違いな事を言ってるのかな?」
ああ、目をそらせちまったか。だが耳ががら空きだ。耳たぶを唇で挟んでしゃぶり、舌先で突き回す。咽の奥にねじ込まれたうめきが、震動になって伝わってくる。
手を握り合わせ、指を絡める。抱きあったまま体をひねり、位置を入れ替えた。
「っ!」
「嫌なら抵抗しろ。君の方が力はあるんだ。本気で嫌がられたら、俺は敵わない」
握りあった手をシーツに押し付け、伸し掛かる。
彼は拒まなかった。
邪魔な衣服を全部取っ払い、露になるそばから肌をなで回しても。真ん中に行くにつれて褐色から濃いピンクに変わる乳首を吸っても。ただ、隙あらばぶっとい腕で体を隠そうとするもんだから手首を結わえなきゃならなかった……外した俺のネクタイで。
筋が目立ち、血管の浮いた手首にキスをしてから、巻き付ける。
色の薄い瞳を見開いて、眉をしかめはしたが振り払いはしない。つまりOKってことだ。結わえた手首を頭上に上げて、改めて見おろす。
「きれいだな」
視線が左右に泳ぐ。
「お前の目は、おかしい」
顔を歪めて横目に睨み、吐いた台詞がこれか。その割には肌がどんどんピンクに色づいてる。コーカソイドってのは、ほんとに正直な肌してるよ。上気するのがすぐわかる。
「いんや? 多少、細かい字を読むのに苦労はするがね。男の体を愛でる目は確かだ。そら、この筋肉」
骨に沿って指先でなぞる。くすぐったそうに身を捩ってる。
「実用的だ。俺みたいに見せる為に作ったカラダとはレベルが違う。実際に動いて、戦って、結果できあがった」
脇腹に手のひらを当てる。思った通り、この厚みは脂肪じゃない。みっしりついた筋肉だ。
「絶妙のバランスだ。見てるだけで目から涎が出る」
体のそこ、ここに残る傷跡。古いのもあれば新しいのもある。軍人か、警官か。そんな所だろう。それ以上は問わない。問うだけ野暮ってもんだ。
だから代わりに顔を近づけて、息を吹きかける。
「っくっ」
「声、我慢するなよ。余計につらくなるぜ?」
「だ……れが……っ」
おやおや、歯ぁ食いしばっちまったよ、この意地っ張りめ。
「OK、喋りたくないんなら……」
脱ぎ捨てた上着のポケットをまさぐる。目的のものはすぐに見つかった。大振りな、木綿のハンカチ。きりきりねじって紐状にする。念のため、真ん中に一つ結び目を作っておこうか。
「黙ってな」
「う、ぐ、むっ!」
白状すると、手を結わえた時点で企んではいた。咽をくすぐり、乳首をひねり、喘ぐ口に結び目をねじ込む。後ろに回して結んで、はい、一丁上がり。
「いい顔だ。さぁて……」
傷跡をことごとくなめ回してキスする間、彼はずっと呻いていた。かえって口を塞いだらスイッチが入っちまったんだろうな。
くぐもっちゃいるが、声出しまくり。
股間の息子さんもびんびんだ。含んでしゃぶったら高い声が漏れた。
「おぉっと、きつかったか?」
「う、うぅっ」
ものすごい勢いで首を左右に振ってる。
「一度イっといた方が、後々楽だと思ったんだがなぁ……しょうがない」
くるりとうつ伏せにひっくり返す。尻をぺちりと叩いたら肩越しに睨まれた。
「すまん、真面目にやるよ」
「ふうっ、う、う、う、うう、んうぅうーっ!」
後ろのお口にキスしたら、ものすごい勢いで吸い付いてきた。上を塞いだもんだから、こっちで喋ってるのかな。可愛いこった。
「そんなに暴れるなよ。まさかバージンって事ぁ無いだろうが、入れられるの久しぶりなんだろ?」
すがりつくような目で、見られた。ずくんっと最奥がうずく。
「OK、焦らしは嫌いか。そんなに欲しいんなら、すぐ入れてやるよ」
舌なめずりしてズボンも下着も一緒くたに脱ぎ捨てた。靴下まで脱ぐ余裕は無かった。
「そら、お尻を上げておくれよ……子猫(kitty)ちゃん。それとも子犬(puppy)かな?」
腰に手を添え、太股を撫でさすりながら囁いた。合間に引き締まった尻肉に頬ずりして、キスをして。年相応に乾いた肌は今やしっとり汗ばみ、触れる手に、唇に吸い付いてくる。
怒りか、羞恥か、それとも期待か。ぶるぶると身震いしながら、彼は誘われるままに尻を高々と上げた。思わず口を押さえる。行き場を失った哄笑が咽を震わせ、耳ざわりな音を立てた。
何てこった、肉食獣みたいな声じゃあないか。
(がっついてやがる。年甲斐も無く、えぇ、みっともねぇ)
「脚、開いて」
内股をさすって左右に開く。彼は完全に枕に顔を埋めていた。耳たぶが赤い。尻肉を左右に開く。先刻なめ回したアナルはすっかり充血してピンクに色づき、呼吸に合わせてぱくぱくと開閉していた。
「ああ、そんなに待ち遠しいのか……嬉しいね。俺もだ」
唇が引きつり、めくれ上がる。
「今、行くよ」
「く、うぅっ」
痛いほど張りつめたペニスの先端を押し当てる。それだけで、彼が呻く。
ひと息にぶち込んだら、どんな声を聞かせてくれるのかな。
もう我慢できない。
そら。
いい声だった。
耳から侵入して脳みそに染みとおり、狂わせる。積み重ねてきた年齢や男の面子、恥じらい、世間体。全部まとめて粉々に吹っ飛ばす。馬鹿みたいに喘いで腰を振った。がつがつと貪った。汗ばむ白い体にしがみつき、発情した犬みたいにがつがつと。
いや、もう頭も体も無い。
ペニスだ。
全部ペニスに飲み込まれちまった。
最初こそ強ばってきつかったが、馴染むにつれて膨らみ脈打って、締めつける肉壁の中に潜り込み、ただただこすりつけるいきりたった肉棒。
咽からあふれる声は、完全に日本語に戻ってる。いや、言語ですらない。
「ん、んん、んんぅーっ!」
狂ったような悲鳴が布の後ろで響く。繋がる体を通して響く。
同じだった。
声のリズムと、俺の腹が彼の尻にぶちあたるタイミング。やや遅れて中が締まる。
「ふっ、は、う、んぐっ、くぅっ」
さっきっから垂れてるのは、汗か。涎か。
頭ん中がぼうっと霞んでくる。反対に股間と根元の感覚が冴え渡る。どくどくと心臓がそのまま腹に降りてきたみたいに脈打って、体中の熱がペニスに吸い込まれて行く。
「あ……やばい。そろそろ出そうだ」
日本語で呻いても何となく意味は通じたんだろう。びっくんっとすくみ上がった。その律動にとどめを刺される。
あれほど激しく動いた後なのに、まだ先があった。
濡れた肉と肉のぶつかる音と、彼の呻く悲鳴がさらに小刻みに。早くなる。
「お……おお、う、うぅっ」
遮二無二腰を振り立てて。逃げようとするピンク色の穴を引き寄せ、がっつり奥にぶち込んで……
「おおぉっ!」
出した。
ありったけの欲情を。どろどろした精液を、吐き出した。ぶちまけた。
「く……うぅ……」
引き締まった四肢が不規則に痙攣してる。完全に意識が飛んじまったようだ。
無意識に前をまさぐると、指の間にべっとりと白い粘つくクリームがまといつく。
「あぁ……何てこったい。触れてもいないのに君、イっちまったのか……っははっ、はははっ!」
彼は本物だ。筋金入りだ。
とんでもない。
いや、だからこそ、そそる。
指にまといつく白濁をなめる。肩越しに振り返り、彼は弱々しく首を振った。すっかりピンクに染まった顔、潤んだ瞳。
猿ぐつわを解くと、涎で湿った布が顔からはがれ落ちる。
「いい顔だ。すっかりオスの……いや、メスの顔になってる」
彼は湯気の立ちそうなほど熱い息を吐いて、涙目で睨んできた。
「………変態」
のしかかって頬を舐め、囁き返す。
「知ってる」
抱きしめる腕の下、放ったばかりのペニスがぴくりと震える。
さて、次はどうやって君を犯してやろうか。
足腰立たなくなるにはまだ、早いだろ?
(Fin)
十海
2015-04-27 02:42:06