■ソファーの上で
家で会う利点。
食いたい時に食える。
飲みたい時に飲める。
そして……
ヤりたいときに、ヤれる。
飯食った後、ソファに並んで座って、ケーブルTVのくっだらない映画なんか見て。
「何だこれ」
「どうしてそーなる」
なんて、声上げて笑ってる最中にふと目が合う。言葉が途切れて、どちらからともなく腕を伸ばし、抱き合って、キスをした。
がっちりして無精髭に覆われた男の頬を手のひらで包み、首を傾げ、乾いてざらざらした男の唇を重ねる。角度を変えたり、舐め合ってるうちにしっとりと濡れて、滑りが良くなる。そのくせ、ちょっと力を入れると面白いぐらいに吸い付き合うんだ。
(これだよ)
(こうでなきゃ)
絡み合う舌の上に、さっきまでかじってたピザとビールの味が踊る。
こうなるともう、止まらない。ビキニの金髪美女も、タコ足の生えたサメも海軍もキレイさっぱり吹っ飛んで、ただただお互いの体を貪るのに夢中になる。肉に篭った熱が皮膚から発散され、吐く息は湿って熱い蒸気に変わる。こうなるともう、服なんか着てる場合じゃない。自分の脱ぐより相手の体からひっぺがすのに夢中になる。
半分くらい脱いだ所でようやく声が出る。
「ベッドに行くぞ」
「……おう」
テレビを消して、居間を出る。そこらに点々と散らばる服や靴はもちろん、テーブルの上もそのままに。
ピザの箱とビールの空き缶は、洗わずに済むから気が楽だ。
このあと滅茶苦茶セックスした
家で会う利点。
食いたい時に食える。
飲みたい時に飲める。
そして……
ヤりたいときに、ヤれる。
飯食った後、ソファに並んで座って、ケーブルTVのくっだらない映画なんか見て。
「何だこれ」
「どうしてそーなる」
なんて、声上げて笑ってる最中にふと目が合う。言葉が途切れて、どちらからともなく腕を伸ばし、抱き合って、キスをした。
がっちりして無精髭に覆われた男の頬を手のひらで包み、首を傾げ、乾いてざらざらした男の唇を重ねる。角度を変えたり、舐め合ってるうちにしっとりと濡れて、滑りが良くなる。そのくせ、ちょっと力を入れると面白いぐらいに吸い付き合うんだ。
(これだよ)
(こうでなきゃ)
絡み合う舌の上に、さっきまでかじってたピザとビールの味が踊る。
こうなるともう、止まらない。ビキニの金髪美女も、タコ足の生えたサメも海軍もキレイさっぱり吹っ飛んで、ただただお互いの体を貪るのに夢中になる。肉に篭った熱が皮膚から発散され、吐く息は湿って熱い蒸気に変わる。こうなるともう、服なんか着てる場合じゃない。自分の脱ぐより相手の体からひっぺがすのに夢中になる。
半分くらい脱いだ所でようやく声が出る。
「ベッドに行くぞ」
「……おう」
テレビを消して、居間を出る。そこらに点々と散らばる服や靴はもちろん、テーブルの上もそのままに。
ピザの箱とビールの空き缶は、洗わずに済むから気が楽だ。
このあと滅茶苦茶セックスした
■指を舐める:V.I→フジイ
「何だ、コレ」
タッパーを開けた途端に立ち昇る強烈なウイスキーと……それ以上にあまったるいフルーツフレーバー。
V.Iは首を傾げ俺の手元をのぞきこむ。興味津々って顔だ。
「酔っ払い熊」
「……熊?」
「あれだよ、クマの形したグミがあるだろ」
「ああ、でもこんなにデカくない」
「それだ」
タッパーの中にぷかぷか浮いてるクマ。元はゴムか食い物かってくらいに固かった表面が、酒を吸ってぷるぷるに膨れ上がってる。
「ウイスキーに漬け込んだんだよ。今日で三日目だ」
赤みの強い褐色の眉が顔の真ん中に寄る。間に縦に刻まれる皴一本。
「何だってそんな、手間のかかるマネをする」
言葉の端々に不満と疑問が滲んでる。
「柔らかいゼリーが食いたいのなら、普通のゼリーを買えばいい」
非合理的だと言わんばかりだ。やれやれ、ほんとに面白みがないっつーか、くそ真面目な男だよこいつって。(そこが好きなんだけど)
「まあ食ってみろ。上手いぞ」
V.Iは無造作に手をつっこみクマをつまんだ。が、つるんっと指の間から逃げちまう。(力、入れ過ぎだ)
「……」
「おぉっと、イキのいいクマちゃんだ」
むすっとして黙っちまった。(拗ねたか?)
身長6フィート越えの、胸板も肩幅もがっしりした厳つい中年男が。駄々っ子みたいに口をヘの字に曲げて、クマのゼリーをにらんでる。可愛いやらおかしいやらで、見てるだけでにやけちまう。
「まあ見てろって。こいつを捕まえるにはちょいとばかりコツが要るんだ。力を入れ過ぎても、弱すぎてもいけない。そっと、優しく……な」
あまったるい酒のしたたるクマを一匹、つまみあげて彼の眼前につきつける。
「そら」
「ん」
素直だね。ぱくっと口に含んだ……俺の指ごと。
「んん」
目を閉じて、肉厚の舌で舐めてる。
けっこうこの味気に入ってるか? そうだろうな。漬け込んだ酒は君好みのジャック・ダニエル。あえて自分好みの日本産ウィスキーは使わなかった。(香りが負けちまうしな)
いい眺めだ。一心不乱に俺の指をしゃぶってる……。酔っ払い熊の表面をつつき回し、どうにか口の中に落とそうとしてる。
口と舌の動きは、ナニをしゃぶってる時とそっくり同じ。
にじみかけたスケベ笑いを飲み込み、指を開いて舌の上に落としてやった。
「ん」
疼く下心をねじ伏せて、素直ににゅるっと引き抜く。
思った通りヴィヴィちゃん、一連の所作に対して何の疑問も抱いてない。(それが重要)
「どうだ?」
頬を動かし噛みしめてる。元の固さがほんのりと残った、何とも絶妙の弾力を楽しんでるようだ。ひと噛みごとにゼリーからしみ出す汁をすすり、飲み下す。のど仏が上下する様子をじっくり鑑賞した。
「……悪くない」
ぺろりと口の周りをなめ回す。けっこうな量のアルコールが、グミ一粒の中にぎゅっと含まれてたはずなんだ。試食した時は、俺だってクマ二匹でちょいといい気分になった。
それがこの男ときたら! 顔色一つ変えやしない。
「もう一匹どうだ?」
「もらう」
一粒つまんで差し出す。今度はさっきよりためらいが無い。
タッパーの中で泳ぐクマはあと6匹。つまりあと6回、君に指をしゃぶらせるチャンスがあるってことだ。
……いいね。
しばらく、楽しめそうだ。
このあと滅茶苦茶セックスした
■指をなめる2:フジイ→V.I
「君ってきれいな手、してるな」
「はぁ?」
眉をしかめて鼻を鳴らす。色の薄い三白眼で、露骨に見下してる。呆れてる。
ごっつい手首を握って、何気なく言ったら途端にこれだ。続く台詞も何とは無しに予想がつくよ。
「お前の目は、おかしい」
はい、お約束。
「そうかぁ? 男を見る目には自信があるんだけどなあ」
お約束の返事をしたら鼻で笑い飛ばされました。
「お前、それ言えば俺が大人しくなるって思ってるだろう」
「違うのかい?」
口角をくいっと上げた。目一杯人を見下し、こばかにしていた表情が一転して得意げな顔に変わる。
「最初に声かけたのは、俺だからな」
「……そうでした」
その間も手は離さず、念入りになで回す。両手で包み込んで、手首から手の甲、指先にかけてじっくりと。
皮膚と皮膚とをすり合わせて、指を一本ずつ包み込む。根元から先端まで、骨格を確かめるように。
「何度でも言う。掛け値無しに君の手はきれいだぜ?」
「どこが」
自嘲気味に笑ってる。だが語尾が乱れた。
(武器を扱う人間は、得てして指先の感覚が鋭敏だ。それが銃器であれ刃物であれ、より正確に動かすために神経を集中する)
(そうして鍛練した結果を、当人は気付かない。使いこなしてるくせにな)
「まずは形だ。骨格がいい。この手首から中指の先端にかけての繋がり方とか、最高」
「っ」
そら。もう指先で軽くなぞっただけで、そこに神経がいっちまうだろ? 俺がどうやって触ってるか、感覚の波がびんびん伝わってるはずだ。
(どんなに声を殺しても、体が教えてくれる)
「感度もいい……」
「あ、何、するっ」
逃がすか。
両手でがっちりと彼の右手を押さえ込み、指先に口づける。
わざと唾液を含ませた唇で挟んで、湿った音を立てて。
「薄くなめした極上の子鹿の皮も、生きた皮膚にはかなわない」
「いちいち、言い方がやらしいぞ、フジイ」
「照れるな。今更この程度、日常茶飯事だろ?」
睨まれた。
そうだ、それでいい。
舌を出し、わざと見せつけながら舐める……上目づかいにねめつけて。
彼は決して視線を外さない。外した方が負けだって思ってる。
唾液で濡れて光る指に顔をすり寄せ、根元から指の先端まで何度も舌を往復させる。アイスキャンディを舐めるように広げた舌でなで上げて、尖らせた舌先でなぞる。
「よせ……」
「だったら振り払え」
「くそっ」
唇噛んでる。くやしそうだな。だが目の周囲がうっすら赤い。(ほんと、君の肌は正直だ)
頃合い良しと、べとべとに濡れそぼった指をぱくりとくわえて口の中に含む。頬をすぼめ、舌で上あごに押し付けて。締めつけた状態で顔を前後にゆるゆる動かして、抜き差しする。
「ふ……ん……」
濡れた唇をこすり、無骨な指が出入りする。
たまらなくいい気分だ。
「んんん」
舐めてしゃぶれば涎が溢れる。咽を鳴らして口内に、たぷたぷに満ちたねばつく液をすする。そう、粘ついてねとねとだ。つまり俺は、欲情してる。
(君はどうだ?)
口の中の指がぴくっと震えた。すかさず舌をまとい付かせてぬめぬめといじくりまわす。
いい気分だ。
指で触るよりずっと、『彼』を感じる。味覚の分が加わるってだけじゃない。骨の固さ、肉の厚みがよりダイレクトに伝わってくる。
他人を自分の中に入れるって行為に、胸が高鳴り血が沸き立つ。
口の中で唾液が泡立ち、かき混ぜられて。じゅるじゅる、ぐじゅぐじゅと音がする……いやらしい、卑猥な水音。
「あぁ……」
目、閉じて、うっすら口開けて喘いでやがる。
わざと勢い良くつぷんっと引き抜いたら、今度はさっきよりはっきりと、震えた。
「さぁて、このなめ回してぬるぬるになった指で君はどこを弄るのかな」
「よせ」
「光って、ピンク色になって。火照ってる。触っても触られてもさぞかし……」
「よせって言ってるだろ!」
すかさず指先に吸い付き、わざと大きな音を立てた。深く吸って、離す。仕上げにひと吹き、ふきかけて。
「あっ」
いい声だ。鳥肌が立つ。(別のモノも立ってるが)
「きれいな手だ」
今や耳元まで赤く染めて、浅く早く息をしながら、V.Iが呻く。
「……お前の舌は……」
「ん?」
「卑猥だ」
つり上がる唇、跳ねる眉がそのまま、笑みを作る。零れる笑いは言葉なんかよりも遥かに迅速に、かつ、露骨に伝えてくれるだろう。
知ってる、と。
このあと滅茶苦茶セックスした
■ベッドに押し倒す:V.I→フジイ
「っ、何しやがる!」
「お前が悪い」
強引に部屋に連れ込まれ、ベッドに放り投げられた。バランス崩してひっくり返り、慣れないスプリングの強さにじたばたしてる間に手首をつかまれ、伸し掛かられる。
悔しいが、こうなるとお手上げだ。背丈も体重も、そして筋力も断然、彼の方が上なんだから。
本気で押さえ込まれたら、俺は抵抗できない。だからって、うろたえてる素振りなんか見せてたまるか、絶対に! 意地で動揺を噛みつぶし、歯を剥いてせせら笑う。
「何が悪いって?」
「本気でわかってないんだな」
「っ!」
ごつごつした指で顎をとられ、強引に上を向かされる。やばいな。目がマジだ。
「いいだろう。じっくり教えてやる」
「だから何を……っ」
問いかけが途中で途切れる。息をするのも忘れるような強引な口付け。まさに『貪られる』。準備も同意も確認せずに舌がねじ込まれ、口の中を埋め尽くす。
「う」
「ん」
押しのけようと手のひらを当てたところで焼け石に水。体重をかけてさらにぐいぐい押さえこまれる。
「く……っふっ、うー、う、うーっ」
口ん中は奴でいっぱいだ。涎と舌で息ができない。耳ん中でガンガン、ボウボウと自分の呼吸と鼓動が煩い。顔が熱い。こめかみが今にも破裂しそうだ。曇ったセロファンでも噛ませたみたいに、視界がぼんやりと霞んでくる。
「う、う、う!」
膝で押せば余計に股間を押しつけてくる。手で振り払おうとすれば、ベッドに埋まるほどの勢いで押さえ込まれる。
(何、怒ってるんだV.I)
(俺、何かしたのかV.I?)
あきらめて体の力を抜く。暴君みたいなキスが、やっと、終わった。
「はぁ……」
「……」
酸欠状態で暴れたせいで全身が妙に気怠く、顔が熱い。必死で口で息をした。唇の周りがべとべとだ。顎や頬にも筋を引いてる。おぼれかけた犬みたいに荒い呼吸を繰り返す間、V.Iは至近距離からじっとこっちを見おろしてる。手首をがっちり掴んだまま、瞬きもせず、表情も変えずに色の薄い瞳で凝視してる。(この男、感情が昂ぶると表情が消えるんだ)
「お前は、無防備すぎる」
「はぁ?」
いきなりこれか。呆気にとられて目を丸くする。
「意味がわからん」
「さっき、カフェで若い男と話してたろ」
「あぁ」
待ち合わせの間、カフェラテ片手に若い男と話をした。
最初は隣のテーブルに居たんだが、あっちも一人で暇だったんだろう。タバコの火を貸したのがきっかけで会話が始まった。多分二十代前半、体格はいいが下手すりゃ息子と言っても差し支えないようなお年ごろ。
また話に上がるのもアメコミとか映画とか、カートゥーンだったりするから、すっかり子守の気分だった。
「マーベルよりDCが好みだな」
「そうか、俺はマーベル派だ」
「マーベルか。やっぱり、キャップ推し?」
「いや、デッドプール。あのお尻がいい。ぷりっとしてて実にキュートだ」
「あいつケツにホース挟むだろ!」
「下品なとこがまた、いい」
他愛の無い会話の中、ぽつりと彼が口にした疑問。
「あんたと話してると、まるで男でもかまわないって感じだな」
笑って聞き流す選択だってあったんだ。だが、約束の時間を20分過ぎても待ち人は来ない。携帯はウンともスンとも言いやしない。寂しさと若干の苛立ちに、つい、いらん反応しちまったんだな。
「……だったらどうする、lad(お若いの)」
トールサイズの紙コップを掲げてラテをひと啜り。唇にまといつく白いミルクの泡を舐めて薄笑い。
金髪の若いのは目をぱちくりして、ぽかんと口を開けていた。(呆気にとられてるな。愉快、愉快)
その瞬間、視界に奴がいた。
どん、とテーブルに手をついて、金髪くんと俺の間に割り込んで。いつものように口をヘの字に結び、眉間にうっすら縦じわを刻んで。
「よう、V.I」
「……行くぞ」
「まだ飲み終わってない」
ぐい、と手首を掴まれた。
「来い」
「…………わかったよ」
いつになく真剣な目とドスの利いた声に気圧されて、挨拶もそこそこ席を立った。
否応なくカフェから引っ張り出されて、ホテルに連れ込まれて。
揚げ句、これだ。
「お前、まさか、あれで?」
「他に何がある」
「あの程度で!」
ぐいと顎を『つかまれ』た。さっきみたいにつまむ程度じゃない。ぶっとい指でがっちりと骨をつかまれてる。(歯医者かここは!)
「わかってるのか、フジイ。あの若い男、完全にお前を口説きにかかってたぞ」
「どこが。アメコミのバカ話してただけだぞ?」
あ、鼻鳴らしやがったよ。
「呆れた奴だ。あれだけ露骨に狙われてたのに、気付いてないとはな」
「ないないない。仮に口説かれたとしてもだよ。ストレートの男が『男相手も試したい』なーんて考える時は、自分が『抱かれる』側に回るもんだぜ?」
よりによって俺の。この、俺のケツの穴の心配してたとは! おかしくて、おかしくて、口元がむずむずしちまう。
「四十過ぎたおっさん相手だぞ?」
「わかってないな」
手が離れる。顎は解放された。だが片手はまだだ。力の緩む気配すら無い。(落ち着かない)
「教えてやるよ。お前がこの国(USA)で、他の男からどう見られてるか」
すうっと撫でられた。脇腹から腰骨にかけて。強引なキスで火の入った体を。
「っ!」
びくっとすくみあがる。かろうじて奥歯を噛んで声は殺したが。
「お前は実に男らしいよ。体も鍛えられてるし、筋肉もしっかりついてる。骨格も申し分ない。顎にはイかした髭も生えてる。どこから見たって立派な、大人の男だ」
息が、乱れる。まるで落ち着かない。バレてるんだろうな、これだけ密着してるんだ。悔しいが、隠しようが無い。
「そりゃ……どう、も」
真顔で面と向かって言われると、とんでもなく、こそばゆい。治まりかけた顔の火照りが、またぶり返す。たまらず目線を逸らせたが、失策だった。
「くっ」
耳が無防備になってた! 低い声で直に吹き込まれる。ベルベットみたいになめらかで、教会の鐘みたいに轟いて……体の奥まで染みとおる声で。
「そのくせ、耳には真珠のピアスなんかつけてやがる」
「別にっ、これぐらい、普通だろ?」
実際粒も小さいし、飾りも無い。直系5ミリにも満たない、バロック真珠のピアス。歪んでいるからこそ放つ、その強い虹色の光沢が気に入っていつも身に着けてる。
ゲイだろうと、ストレートだろうと、これより派手ででかいピアスをつけてる男はいくらだっている。
「普通じゃない」
「へっ、真面目すぎて、太っちょかばあさんぐらいにしか似合わない石だぜ?」
「コーカソイドにはな」
かすかに笑う気配がした。息が頬に、耳に当たる……近い。熱い。ぞわあっと鳥肌が立った。
「お前の肌には、よく似合ってる」
「……そりゃ、どーも……くっ!」
舌で弄られる。金具がピアスホールの縁にこすれて、むず痒いような、こそばゆいような感覚が走る。たまらず身じろぎした。
「似合いすぎるのが問題だ。なまめかしくって、触ってみたくなる……」
「お前、いつもそんなこと考えてるのか!」
「初めて会った時からな」
ちゅくっとご丁寧に音を立てて、耳たぶごと含みやがった。
「よ……せっ」
こね回される。吸われる。しゃぶられる。
ちっぽけな真珠と、穴に通った金具と、耳たぶと。内側から穴がひっぱられ、金具がかちかちと歯に当たってる。
「あ、あっ」
「可愛い声だ」
「っ!」
零れた悲鳴をごまかそうと、矢継ぎ早に言葉を綴った。ともすればもつれがちな舌をフルに回転させて、思いつくそばからまくしたてる。
「それっ、衛生上問題ないか? いや、いつもケアしてるけどっ! ってか真珠には体液が厳禁なんだよ、とっとと、離せっ!」
だめだ、声が上ずってる。みっともない。鼓動が激しくなってる。情けない。
「だめだ。まだ半分も言ってない」
「まだあるのかよ!」
「……お前は妙な色気がある。別に、しなを作ってる訳でもない。媚を売ってる訳でもない。だが受信機のある男には強烈にアピールする色気がな」
「知るかよ! 第一、アピールなんか、してない」
明かりも消さずに面と向かって至近距離で、囁かれてる。普段無口な男から、口説かれてる。恥ずかしさで今にも脳みそが沸騰しそうだ。
(今の俺、どんな顔してるんだろう。ああ、ちくしょう、考えたくもない!)
掌が滑る。腰骨から尻に潜り込み、執拗に揉みしだく。
「ひっ」
背筋が反り、声が跳ねた。
「細い腰してやがる。尻もきゅっと締まって小さい」
「揉むな、この、エロ中年!」
睨んだ目に涙がにじむ。(これじゃ逆効果だ)
「立派な男なのに……骨格からして体の作りが違うんだよ」
「あ」
やっと手首が解放された。腰と尻をいやらしくなで回す手が離れる。安堵するのもつかの間。
「こうやってすっぽり腕ん中に収まる」
抱きしめられていた。
奴のぶっとい腕と分厚い胸板に、完全に掴まっていた。服の上からでも、篭る熱さに息を呑む。
「わかるか? 押し倒すのに最適な体なんだよ、お前って男は」
「……わかった。よく、わかった」
押し付けられる首筋はすっかり血色が良くなって、古傷がくっきり浮かんでる。
「ゲイだろうが。ストレートだろうが。お前を性的な対象として意識する時は、まず『抱きたい』って思うんだよ。そっちにしか思考が行かないんだよ」
「斬新な発想だ」
斬新すぎてまったく気付かなかった。だが言われてみれば思い当たる節が無いでも無い。
「俺以外の男が、お前をそんな目で見るのは……我慢できない」
腕の。首筋の。全身の筋肉が盛り上がる。力がこもり、強く抱きすくめられる。
閉じ込められる。
拘束される。
彼の骨に。肉に。
滅多なことじゃ感情を表に出さない。表情すら動かさない男が、素直に嫉妬を認めている。それだけ俺に執着しているのだと、白状してる。
(ちくしょうめ、可愛い奴)
いじらしいやら、愛おしいやらで胸が熱くなる。
「……すまん」
こっちからも腕を回して、背中を撫でる。
「俺が、悪かった」
「………わかればいい」
「Sorry(ごめんな)、V.I」
「その謝罪、受け入れよう。ただし」
「う?」
あ。笑ってる。笑ってるよこいつ。口吊り上げて、目ぇ細めて、滅多にないけど満面の笑み浮かべてるよ!
(前言撤回。可愛くない。不穏な予感しかしない)
「今夜は、抱かせろ」
「う」
そう来るか!
ごまかしも逃げも効かない、どストレートな表現。この状況。Noと言うにはあまりに分が悪い。
「わかった……わかったから、とりあえず腕離せ! 脱げない」
「心配するな」
抱擁が解かれ、手が伸びてくる。
「脱がせてやる。一枚残らず、全部な」
「楽しそうだな」
「そう見えるか」
「くそっ、そんな顔されたら……逆らえないじゃねぇか」
無意識に押さえていた襟元から、手を離す。
「OK、今夜は君に委ねよう」
ネクタイひっぱり、襟をくつろげる。鳶色の瞳が凝視してる。視線に牙があったら、きっと食いちぎられる。
「Bon appetite(召し上がれ)?」
「その言い方」
はだけた喉元に顔が寄せられる。
「卑猥だ」
「……知ってる」
(このあと滅茶苦茶セックスした/了)
十海
2015-05-30 22:33:56