「さっさと挿れろ」
「さっさと挿れろ」
彼が言う。
「まだ早い」
俺が答える。
「今入れるときついよ?」
「うそ……言え」
白く煙りそうなくらいに熱のこもった息を吐き、閉じていた目をうっすら開ける。
赤みの強い鳶色の瞳は、こんなにも鮮やかなくせにどこまでも透明で。灯りの下では白いカップに注いだ紅茶みたいに見える。
「さんざん、いじり回したくせにっ」
ほくそ笑む。
正解。
炯々と灯した蛍光灯の白い光の下、ベッドに座らせたV.Iの脚の間に座り込み、さんざん舐めた。
例によって歯を食いしばってるもんだから、ローションをたっぷり絡めた指でアナルをなで回し、ひだひだをめくってこねくり回すとあら不思議。
途端に可愛い声で喘ぎ始める。
(たまらない)
「本当に、君の後ろの口はおしゃべりだな。ぷっくりと膨らんでぬちゅぬちゅ音を立てて指に吸い付いてくる」
「言う……なっ! 馬鹿にしやがって」
「心外だな。馬鹿にしてやしないし、からかってもいない」
左手でチューリップでも引き寄せるようにペニスをつまみ、先端にキスを落とす。
「ふっ、く……」
ぱくぱくと左右に開閉する鈴口に舌先を突っ込むと、上ずった悲鳴みたいな声……いや、悲鳴だな、これは。
かみ殺してるけどその分、咽奥に響く。
(たまらない)
舌なめずりして上目で見あげる。
「ただただ君がかわいくてたまらないんだよ、ヴィヴィ?」
「その、呼び方は、やめろっ!」
「どうして? 女の子みたいだからか? 身も心もメスになっちまうから?」
答える合間に息を吹きかけ竿をなでてやった。手の中に包んだ小鳥の羽毛をなでるみたいにそろりそろり上から下へ。つぶさぬように、力を入れすぎぬように……不意打ちで流れを逆にして、指先一つでカリ首の段差をくすぐってみたりして。
「くっ」
うつむいて、奥歯を噛んだ。それこそ小鳥みたいに震えてる。体も、ペニスも、小刻みに。
「可愛いなあ」
何度つぶやいたかわかりゃしない。しかしながらサイズと太さに関して言えば、彼の方がでかい。体格差に加えてコーカソイドとモンゴロイドの違いってやつだ。色合いは実に鮮やかなコーラルピンク、肌の白さとの差が際立つ。
「何を心配してるんだい? こんなご立派なペニスをおっ立ててるくせに。ああ、見ろよ、そっくり返って腹につきそうだ。四十路の立ち方じゃないよなぁ。元気でよろしい。精力有り余ってんのかな」
「それは、お前だろ、この、変態っ」
首をすくめてやり過ごす。
「……知ってる」
言われっぱなしってのも悔しいから、すっかりほぐれて膨らんだアナルに指を押し込んでさしあげた。ねっちり濡れた肉の穴が反射的にすぼまる。その抵抗さえも心地よい。輪ゴムを幾重にも巻いたようなきつさが、入り口を抜けるとふわっとゆるむ。指を曲げるゆとりができるまでじりじり進む。
「んっ、うぅ」
眉を寄せて呻いてる。そのくせ、後ろが脈打って指をしゃぶる。意識に反して勝手に体が動いてるって感じだ。きつい締めつけの後、息を吐くようにふっと力が抜ける。その瞬間がチャンス。
(いいね、相変わらず感度抜群)
初めて出会った夜は、全力で俺を押し倒すつもりで声をかけたらしい。(このガタイと面構えだ、さもありなん)しかし蓋を開けてみれば、掘ったのは俺。以来、ほぼ週一でたっぷりじっくり愛し合った結果、今じゃ指一本でもすぐに火照るし前も張りつめる。
血管が浮かぶほど膨れ上がり、水浴びした子犬みたいに震えるペニスに指を絡め、尚もしつこく撫でさする。
「四十五歳にもなったおっさんが、びんびんにおっ立ててるのは誰のせいだとお思いか。ええ?」
てらてら光る表面にふっと息を吹きかけると、歯を食いしばってすくみ上がる。連動して後ろも締まり、指が肉壁に押し付けられる。(結局、自分で自分の体を追いつめてるんだよなぁ)
「っくぅっ」
「この赤毛の子猫ちゃんが、可愛くて可愛くて仕方ないんだよ。何度も言わすな」
「やめろっフジイ!」
俺の言葉を途中で遮り、顔を背けちまった。
「お前の声聞いてると、おかしくなる」
「……だったら、目ぇ閉じるのは逆効果だぜ」
「なっ」
もはや手加減無用。後ろに二本目を侵入させる。「ひっ」とか咽が鳴ってるけど構うもんか。
きゅうきゅうと吸い付く肉壁を、外側に押し広げて奥へと進める。ぬりたくったローションを馴染ませながら、粘つくいやらしい螺旋を描く。
「んっ、あうっ、おぅっ」
(おいおい、さっき悲鳴を上げたのは誰だい? 気持ち良さそうな顔しやがって、正直者め)
指を抜き差ししながらペニスの先端を含み、飲み込む。さすがに全部は無理だが咽に当たるくらいには呑める。
(それだけ、互いに体が馴染んでるってことだ)
「ふ、う、あ、よせ、よせ、フジイ、だめだ、そこは、よせっ、あ、あっ」
あきれるくらいにきれいな色だ……濡れてつやつやで、ぷりぷりしてて。
股間にそそり立つ堂々たる肉棒は男の力と雄々しさの証。だが今は愛でるべき弱点にしか見えない。思えない。
「はっ、はふっ、ふっ、はっ」
指で後ろを犯しながら竿を握ってしごいた。
「ひっ、ん、やぁう、あふ、あふぅ、や、あ、も、もうっ、もうっ、ひぁっあふ、あぅんっ、あんっ」
小鳥みたいに震える先端を、舌と口で強弱つけてリズミカルに締め上げて。派手な水音を立てつつ顔を上下させる。
「おっ、お、も、だめ、だ、出る、出るっ」
ひとたまりもなかった。
「ん……」
低く唸って震動を伝え、すすり上げながら指をぐりんっとひねる。指先に当たる、アーモンドみたいなしこりを狙って。
「……あっ……あっ」
根元がひくつき、竿を脈動が走る。口の中の『彼』がふくらむ。歯を立てたい衝動を必死で堪えた。
「おうっ」
擦れた声。のけ反り、小刻みに腰を揺すって。ペニスを突き出しながら彼は、あっけないほど素直に射精した。ぴくぴく蠢くペ肉棒を唇ではさみ、放たれる粘つく体液を飲む。一直線に飛んできた熱い液体が、咽奥の粘膜に当たって弾ける。
「んうぅ」
一週間ぶりだ。
かなり、濃い。口ん中はもとより鼻の奥まで染みとおる、ねっとりした雄のエキスを飲み下す。
(これで、俺の知らない君の時間も俺のものだ)
ごくりと咽が鳴った。
「あ……」
彼が目を閉じたまま身じろぎし、震える。唇に伝わる二度目の予兆。
(まだ出すか。元気だなあ)
わざと勢い良く口を離す。白く粘つく糸を引き、雫を散らせ、真っ赤にゆだったペニスが揺れる。
「く、うっ」
吹き出す半透明の白濁が引きしまった腹に。スペイン産のハムみたいにぶっとい脚に散った。男の一番無防備で、無邪気に快楽に飲まれる瞬間。そいつを手の中に収めるこの感覚……たまらない。
「おーおー、二発目も派手に飛んだなぁ。元気なこって」
「……やっぱり……お前は……変態だ」
わざと舌を出して口の周りを舐める。見てなくても音でわかるだろう。何で俺がこんなに粘っこい音を立てているのか。
「おっしゃる通り、HENTAIですよ? 君のペニスが愛しくて可愛くてしかたないHENTAIだ」
「っ!」
すばらしきかな、HENTAIは、アメリカでも立派に通じる日本語の一つ。
すっかりおなじみになったやり取りに不意に混じる変調。驚いたんだろうな。目を開いてこっち見てる。そして赤くなる。
そうだ、その顔だ。どうにかして意表をつくと君は普段のしかめっ面が抜けて、子犬みたいな表情になる。
(アクセントは大事。馴染んだ相手だからこそ)
「不思議だよなぁ。自分にも一つついてるモノだが君の一部だと思うと、ことさらに可愛くてたまらないよ」
脈打つ表面にまんべんなくキスしながら、後ろの指を引き抜く。刺激を与えないように精一杯静かにやったつもりなんだが、ちゅぽんっと派手な音がした。(締めつけがきつすぎてきつすぎて)
ぶっとい咽も震えてる。手のひらに包んだ濡れた肉も震えてる。
白濁を滴らせながらも萎える気配のないそいつに顔を寄せた。
「っ、何を……っ」
粘つく表面に頬ずりする。
「よせ、馬鹿、汚れる! あ……やめろバカ、髭が……当たってっ」
悲鳴があがるがおかまいなし。(込み上げる背徳感がたまらない)
「あぁ、ぴくぴくしてるね。ここも。ここも」
「やめろ……舐めるな」
充血した先端、カリ首の段差から竿をなぞって根元へ。真っ赤に熟れたボールを吸ったらまた、喘いでる。
「しつこいぞ、フジイ」
顔を赤らめて、目に涙を浮かべてにらんでる。にらんでるんだろうなあ。切なそうに眉を寄せて息を弾ませ、今にも泣き出しそうな顔してる。
「本当に正直だ。まるで君自身がもう一人ここにいるみたいだ」
「フジイ。フジイ。フジイ!」
(名前の意味を尋ねられ、ウィステリアと教えたら君は涙が出るほど大笑いして。揚げ句『似合わないな』と楽しげに言った。以来ずぅっと俺は、花の名前で呼ばれてる)
「フジイ……っ」
呼び重ねるほどに声は切羽つまり、とうとう目の縁に盛り上がった涙が雫とあふれ、頬を伝い落ちる。
ペニスの先端にも同じように雫がにじんでる。
(やっぱりここは、もう一人の君だ)
「も、いいから」
目を閉じると、V.Iは自分から片足を上げた。
「さっさと挿れろ」
「OK、V.I」
掲げられた太股をなで、手をかけて押し上げる。
「仰せのままに」
すっかり臨戦体勢になったペニスを当てると、アナルの表面が吸い付いてきた。
「ふっ、く」
挿入(はい)った瞬間、彼は目を閉じて背を弓なりにそらせ、喘ぐ。
「Oh……」
低く擦れた、背筋をとろかすほどに甘い声。
「さっさと挿れろ」
彼が言う。
「まだ早い」
俺が答える。
「今入れるときついよ?」
「うそ……言え」
白く煙りそうなくらいに熱のこもった息を吐き、閉じていた目をうっすら開ける。
赤みの強い鳶色の瞳は、こんなにも鮮やかなくせにどこまでも透明で。灯りの下では白いカップに注いだ紅茶みたいに見える。
「さんざん、いじり回したくせにっ」
ほくそ笑む。
正解。
炯々と灯した蛍光灯の白い光の下、ベッドに座らせたV.Iの脚の間に座り込み、さんざん舐めた。
例によって歯を食いしばってるもんだから、ローションをたっぷり絡めた指でアナルをなで回し、ひだひだをめくってこねくり回すとあら不思議。
途端に可愛い声で喘ぎ始める。
(たまらない)
「本当に、君の後ろの口はおしゃべりだな。ぷっくりと膨らんでぬちゅぬちゅ音を立てて指に吸い付いてくる」
「言う……なっ! 馬鹿にしやがって」
「心外だな。馬鹿にしてやしないし、からかってもいない」
左手でチューリップでも引き寄せるようにペニスをつまみ、先端にキスを落とす。
「ふっ、く……」
ぱくぱくと左右に開閉する鈴口に舌先を突っ込むと、上ずった悲鳴みたいな声……いや、悲鳴だな、これは。
かみ殺してるけどその分、咽奥に響く。
(たまらない)
舌なめずりして上目で見あげる。
「ただただ君がかわいくてたまらないんだよ、ヴィヴィ?」
「その、呼び方は、やめろっ!」
「どうして? 女の子みたいだからか? 身も心もメスになっちまうから?」
答える合間に息を吹きかけ竿をなでてやった。手の中に包んだ小鳥の羽毛をなでるみたいにそろりそろり上から下へ。つぶさぬように、力を入れすぎぬように……不意打ちで流れを逆にして、指先一つでカリ首の段差をくすぐってみたりして。
「くっ」
うつむいて、奥歯を噛んだ。それこそ小鳥みたいに震えてる。体も、ペニスも、小刻みに。
「可愛いなあ」
何度つぶやいたかわかりゃしない。しかしながらサイズと太さに関して言えば、彼の方がでかい。体格差に加えてコーカソイドとモンゴロイドの違いってやつだ。色合いは実に鮮やかなコーラルピンク、肌の白さとの差が際立つ。
「何を心配してるんだい? こんなご立派なペニスをおっ立ててるくせに。ああ、見ろよ、そっくり返って腹につきそうだ。四十路の立ち方じゃないよなぁ。元気でよろしい。精力有り余ってんのかな」
「それは、お前だろ、この、変態っ」
首をすくめてやり過ごす。
「……知ってる」
言われっぱなしってのも悔しいから、すっかりほぐれて膨らんだアナルに指を押し込んでさしあげた。ねっちり濡れた肉の穴が反射的にすぼまる。その抵抗さえも心地よい。輪ゴムを幾重にも巻いたようなきつさが、入り口を抜けるとふわっとゆるむ。指を曲げるゆとりができるまでじりじり進む。
「んっ、うぅ」
眉を寄せて呻いてる。そのくせ、後ろが脈打って指をしゃぶる。意識に反して勝手に体が動いてるって感じだ。きつい締めつけの後、息を吐くようにふっと力が抜ける。その瞬間がチャンス。
(いいね、相変わらず感度抜群)
初めて出会った夜は、全力で俺を押し倒すつもりで声をかけたらしい。(このガタイと面構えだ、さもありなん)しかし蓋を開けてみれば、掘ったのは俺。以来、ほぼ週一でたっぷりじっくり愛し合った結果、今じゃ指一本でもすぐに火照るし前も張りつめる。
血管が浮かぶほど膨れ上がり、水浴びした子犬みたいに震えるペニスに指を絡め、尚もしつこく撫でさする。
「四十五歳にもなったおっさんが、びんびんにおっ立ててるのは誰のせいだとお思いか。ええ?」
てらてら光る表面にふっと息を吹きかけると、歯を食いしばってすくみ上がる。連動して後ろも締まり、指が肉壁に押し付けられる。(結局、自分で自分の体を追いつめてるんだよなぁ)
「っくぅっ」
「この赤毛の子猫ちゃんが、可愛くて可愛くて仕方ないんだよ。何度も言わすな」
「やめろっフジイ!」
俺の言葉を途中で遮り、顔を背けちまった。
「お前の声聞いてると、おかしくなる」
「……だったら、目ぇ閉じるのは逆効果だぜ」
「なっ」
もはや手加減無用。後ろに二本目を侵入させる。「ひっ」とか咽が鳴ってるけど構うもんか。
きゅうきゅうと吸い付く肉壁を、外側に押し広げて奥へと進める。ぬりたくったローションを馴染ませながら、粘つくいやらしい螺旋を描く。
「んっ、あうっ、おぅっ」
(おいおい、さっき悲鳴を上げたのは誰だい? 気持ち良さそうな顔しやがって、正直者め)
指を抜き差ししながらペニスの先端を含み、飲み込む。さすがに全部は無理だが咽に当たるくらいには呑める。
(それだけ、互いに体が馴染んでるってことだ)
「ふ、う、あ、よせ、よせ、フジイ、だめだ、そこは、よせっ、あ、あっ」
あきれるくらいにきれいな色だ……濡れてつやつやで、ぷりぷりしてて。
股間にそそり立つ堂々たる肉棒は男の力と雄々しさの証。だが今は愛でるべき弱点にしか見えない。思えない。
「はっ、はふっ、ふっ、はっ」
指で後ろを犯しながら竿を握ってしごいた。
「ひっ、ん、やぁう、あふ、あふぅ、や、あ、も、もうっ、もうっ、ひぁっあふ、あぅんっ、あんっ」
小鳥みたいに震える先端を、舌と口で強弱つけてリズミカルに締め上げて。派手な水音を立てつつ顔を上下させる。
「おっ、お、も、だめ、だ、出る、出るっ」
ひとたまりもなかった。
「ん……」
低く唸って震動を伝え、すすり上げながら指をぐりんっとひねる。指先に当たる、アーモンドみたいなしこりを狙って。
「……あっ……あっ」
根元がひくつき、竿を脈動が走る。口の中の『彼』がふくらむ。歯を立てたい衝動を必死で堪えた。
「おうっ」
擦れた声。のけ反り、小刻みに腰を揺すって。ペニスを突き出しながら彼は、あっけないほど素直に射精した。ぴくぴく蠢くペ肉棒を唇ではさみ、放たれる粘つく体液を飲む。一直線に飛んできた熱い液体が、咽奥の粘膜に当たって弾ける。
「んうぅ」
一週間ぶりだ。
かなり、濃い。口ん中はもとより鼻の奥まで染みとおる、ねっとりした雄のエキスを飲み下す。
(これで、俺の知らない君の時間も俺のものだ)
ごくりと咽が鳴った。
「あ……」
彼が目を閉じたまま身じろぎし、震える。唇に伝わる二度目の予兆。
(まだ出すか。元気だなあ)
わざと勢い良く口を離す。白く粘つく糸を引き、雫を散らせ、真っ赤にゆだったペニスが揺れる。
「く、うっ」
吹き出す半透明の白濁が引きしまった腹に。スペイン産のハムみたいにぶっとい脚に散った。男の一番無防備で、無邪気に快楽に飲まれる瞬間。そいつを手の中に収めるこの感覚……たまらない。
「おーおー、二発目も派手に飛んだなぁ。元気なこって」
「……やっぱり……お前は……変態だ」
わざと舌を出して口の周りを舐める。見てなくても音でわかるだろう。何で俺がこんなに粘っこい音を立てているのか。
「おっしゃる通り、HENTAIですよ? 君のペニスが愛しくて可愛くてしかたないHENTAIだ」
「っ!」
すばらしきかな、HENTAIは、アメリカでも立派に通じる日本語の一つ。
すっかりおなじみになったやり取りに不意に混じる変調。驚いたんだろうな。目を開いてこっち見てる。そして赤くなる。
そうだ、その顔だ。どうにかして意表をつくと君は普段のしかめっ面が抜けて、子犬みたいな表情になる。
(アクセントは大事。馴染んだ相手だからこそ)
「不思議だよなぁ。自分にも一つついてるモノだが君の一部だと思うと、ことさらに可愛くてたまらないよ」
脈打つ表面にまんべんなくキスしながら、後ろの指を引き抜く。刺激を与えないように精一杯静かにやったつもりなんだが、ちゅぽんっと派手な音がした。(締めつけがきつすぎてきつすぎて)
ぶっとい咽も震えてる。手のひらに包んだ濡れた肉も震えてる。
白濁を滴らせながらも萎える気配のないそいつに顔を寄せた。
「っ、何を……っ」
粘つく表面に頬ずりする。
「よせ、馬鹿、汚れる! あ……やめろバカ、髭が……当たってっ」
悲鳴があがるがおかまいなし。(込み上げる背徳感がたまらない)
「あぁ、ぴくぴくしてるね。ここも。ここも」
「やめろ……舐めるな」
充血した先端、カリ首の段差から竿をなぞって根元へ。真っ赤に熟れたボールを吸ったらまた、喘いでる。
「しつこいぞ、フジイ」
顔を赤らめて、目に涙を浮かべてにらんでる。にらんでるんだろうなあ。切なそうに眉を寄せて息を弾ませ、今にも泣き出しそうな顔してる。
「本当に正直だ。まるで君自身がもう一人ここにいるみたいだ」
「フジイ。フジイ。フジイ!」
(名前の意味を尋ねられ、ウィステリアと教えたら君は涙が出るほど大笑いして。揚げ句『似合わないな』と楽しげに言った。以来ずぅっと俺は、花の名前で呼ばれてる)
「フジイ……っ」
呼び重ねるほどに声は切羽つまり、とうとう目の縁に盛り上がった涙が雫とあふれ、頬を伝い落ちる。
ペニスの先端にも同じように雫がにじんでる。
(やっぱりここは、もう一人の君だ)
「も、いいから」
目を閉じると、V.Iは自分から片足を上げた。
「さっさと挿れろ」
「OK、V.I」
掲げられた太股をなで、手をかけて押し上げる。
「仰せのままに」
すっかり臨戦体勢になったペニスを当てると、アナルの表面が吸い付いてきた。
「ふっ、く」
挿入(はい)った瞬間、彼は目を閉じて背を弓なりにそらせ、喘ぐ。
「Oh……」
低く擦れた、背筋をとろかすほどに甘い声。
夜通しじゃれ合って
明け方眠りに落ちる。脱ぎ捨てた服もそのままに、二人ひっついて蕩けたミルクみたいに濁った夢に浸る。
日も高くなった頃にようやく意識を取り戻したが、ヴィヴィちゃんはまだ夢の中だ。
(無防備な寝顔さらしやがってまぁ、こうしてるとまるっきり天使だなぁ)
当人が聞いたら全力で否定してくるだろうが、思う分には自由だ。額にキスだけ落としてこっそりベッドを抜け出す。
シャワーを浴びるのに服を脱ぐ必要は無かった。
「あー……」
蛇口をひねり、熱めのお湯を頭から浴びる。温もりと爽快感と引き換えに、体中にべっとりこびりついたあいつの匂いが消えて行く。
寂しい。
(妙なもんだ。自分の起き抜けの体臭なんざ、速攻で消したくなるのに)
日本人ってのはとにかく風呂が大好きで、ご多分に漏れず俺も基本入浴はバスタブにじっくり浸かる派だ。バスルームとトイレが分かれてるのを基準に部屋を選んだし、わざわざでかいバスタブに付け替えたくらいだ。
だが昼間はシャワーの方がいい。長く浸かれば浸かるほど、湯上がりがだるくなる。
シャンプーをとろりと手のひらにひねり出し、軽く泡立ててから頭に塗りたくる。生え際も耳の後ろも念入りに。ここをきれいにしとかないと、どうしたってオヤジ臭くなる。
(無理に若作りするつもりはないが、ちょっとの手間で防げるなら迷わずそうするさ)
降り注ぐお湯とまといつく泡に音が遮られる。視界も音も閉ざされた独りぼっちの空間に、とりとめのない思考がこだまする。
入浴とセックスは、似てる。
熱いのをがーっと浴びたい時もあれば、ぬるいのにだらだらと浸りたい時もある。
四十代のおっさん同士だ。ここまで来ればどっちが年上で、どっちが頼れる男かなんて張り合う事も無い。
俺は基本、彼を甘やかすのが好きだし気が向けば甘えもする。彼も何だかんだで素直に甘えて来るし、時には胸を貸してくれる夜もある。
要するに、自然体。
それぞれ積み上げてきた時間の長さがじわじわ効いてるんだろう。寄り掛かったり、寄り掛かられたり。うっかり弱みを見せても幻滅しない。図に乗らない。馬鹿にされないって、わかってる。
(でも、意地は張る)
お湯の勢いをさらに強くして、泡とぬるみを洗い落とした。
恋人の手前、かっこつけたい時ってのが確かにあるのだ、男って生き物には。
「っ!」
不意に背後から伸びてきた手に抱きすくめられる。振り向くより早く耳元に囁かれた。
「不用心だな。鍵がかかってなかった」
「……入ってくるのは君しかいないだろ?」
「そんなに俺に風呂をのぞいてほしいのか? この変態め」
「いつから見てた」
「頭洗い始めた所から」
結構な時間、黙って見てたってことになる。
「ったく。おっさんのシャワーシーンとか誰得だよ」
答えるのは低い含み笑い。
無骨な掌が胸を覆い、乳首もろとも肉をもみしだく。濡れた体を彼の唇が滑る。首筋から背中へ、骨格を辿って。
「きれいな背中だ」
漏れかけた喘ぎを飲み込み、鼻で笑った。
「大概に干からびてるぜ?」
「自分じゃ見えない」
肩甲骨の出っ張りの上にキスされる。わざと音を立てて皮膚と肉を食み、歯を立てて。そのくせ、前に回される腕は緩い。いつでも抜け出せる程度に。
(わざとやってやがるな!)
唇を噛みしめ、身震いしながら踏みとどまる。ここで逃げたら負けだ。
「痕……ついたじゃねぇか」
「自分じゃ見えないだろう?」
その通り。
「こっち向けよ、フジイ。おはようのキスもさせてくれないのか?」
(んなろっ!)
半回転して向かい合う。途端、視界に飛びこむ得意げな薄笑い。こっちから飛びついてキスしてやった。
「っ!」
至近距離でにらみ合ったまま、我先にと舌を突っ込む。少しでも深く相手の中に潜り込もうと角度を変えて、がっちりしがみつく。
(これじゃ陣取りだ)
「ん……」
「んぐっ」
らちが明かない。
思い切って一旦顔を離し、上から彼の口をがっぷり丸ごとくわえこむ。上唇も下唇も、もろとも全部。唇にちりちりと無精髭が当たる。
「ん、ん、んんっ」
目ぇ白黒させてやがるよ。愉快、愉快。
「ん、ひっ!」
ほくそ笑む間も無くびりっとした刺激に体を貫かれる。
「んのやろ、乳首は反則だろうが」
「立ってたら弄るしかないだろ」
鼻で笑ってやがるよこいつ!
しばしにらみ合う。降り注ぐお湯の雨に打たれたまま、白い昼の光に照らされて。
無数の噛み跡、吸い跡、指の跡。火照る肌に昨夜の情事の痕跡(あと)が赤く浮かぶ。そこを弄られると弱いのだと。たまらないのだと、てんでに告げ口しているふしだらな標。息をする間も惜しみ、先を争って互いの体に刻んだ。
と……。
V.Iが手を上げる。仕掛けてくるかと一瞬身構えたが、違った。
毛先が目に入ったらしい。わずかに顔をしかめ、濡れて張り付く鳶色の髪を、かきあげた。筋肉が波打ち、その下の骨格が動く。
滴るお湯の流れが変わり、水音が揺らぐ。
(う)
こんちくしょうめ。
ああ、もう、こいつの存在自体が反則だ! 無骨なのに艶めいて、鳥肌が立つほど色っぽい。
その瞬間、俺はあっさり降伏した。無意識、無作為、無造作な仕草に。
「……OK。わかった。休戦しよう」
「いいだろう」
自分から腕を回して抱きついた。入れ違いに奴のぶっとい腕が背に回る。息を吐き、肩に顎を乗せた。
密着する体。腕の中に抱え込んだがっちりした体。その温度と圧倒的な生きた肉の質感に、安堵すると同時にむずむずする。
(あ……)
右の耳たぶに棲みついたガーネット。この位置からだとよく見える。
(片方の耳に一つだけ、ピアスを開けたその勇気が正直うらやましい)
首筋に走る傷跡。
君の体は傷だらけだ。いたるところに弾や刃物の痕が刻まれている。だがこれは、際立って大きい。
縫い痕がはっきりわかる。すっかり馴染んで肌の一部になってはいるが……。
この角度。この位置。相手が左利きでなければ切りつけたのは背後からか、あるいは横からってことになる。
(どこで着けられたのか。誰に切られたのか)
腕組んで歩いて、同じ飯を食って、煙草の先っちょでキスして火を分け合って。ところ構わず夢中になってセックスしてるのに俺はまだ、聞けずにいる……この傷の理由(わけ)を。
もどかしくてたまらず、唇で触れる。
息を呑む気配。
上昇した体温に赤く浮ぶ縫い跡を、舌先でなぞる。
「休戦だと……言ったろ」
背中のお返しとばかりに吸い上げて肉を食み、歯を当てる。
「フジイっ!」
「ごめん、あれ、ウソ」
後ろ手に蛇口をひねり、お湯を止めた。
「貴様ぁっ」
「たまには風呂場でするのもいいだろ?」
「お前、先週もそう言ったよな」
「あれはバスタブの中。今日は、外だ」
抱き合ったままくるりと半回転。惚れ惚れするほど肉付きのきれいな分厚い体を、浴室の壁に押し付ける。
「待て、後ろから? 後ろからかっ」
「はいはい、足開こうねー」
膝を割り込ませて押し開く。背後からのしかかり、耳元に囁いた。
さっき、俺がされたように。
「滑りやすいから、しっかり踏ん張れよ?」
「……余計な前置きはいい」
彼は肩越しに振り返り、言った。壁に左手を着き、右手を背後に回して尻を広げて。
「さっさと挿れろ」
「OK」
実に、潔い。
浴室はよく音が響く
「あっ、あ、はぁっ、ふっ、う、はぅんっ」
「いい声だ」
「お前の……耳は、おかしい!」
「いいや? まだ遠くなるには早いさ」
「ひっ」
入り口近くまで引いてから、弾みをつけてぶちこむ。ばつんっと腹と尻のぶつかる音。震動の余韻も引かぬうちに身を乗り出し、上体を巻き付ける。厚みのある胸を手で引き寄せて、乳首を噛んだ。
かなりぎりぎりだが、何とか届く。
「く、う、う」
おいおい、身じろぎしちゃだめじゃないか。ぷっくり立った乳首が歯の中でよじれる。だが離すつもりは微塵も無い。
くっちゃくっちゃと音を立てて吸って、歯で噛んで、押しつぶす。
自分でよくやる事は、自分がされても感じるって事だ。事実、蕩けた尻穴がきゅんきゅん締まってる……今にも音が聞こえそうなくらいに。
「い、ぁっ、や、やめっ、フジイ、も、そこはっ」
ぞくぅっと背筋を甘い痺れが駆け抜ける。ペニスの根元が脈打つが、まだだ。まだ早い。
込み上げる衝動を口に、歯にぶつけた。分厚く張った胸の肉と肌に食い付いて、顎に力を込める。
「う、うぐ、う、ううーっ」
あの夜以来、彼は素直に声を出すようになってくれた。(ま、そこに至るまでの道のりはやっぱり平坦じゃないんだが)
粘つく口の中で固く尖り、形が変わるほど潰れた乳首。伝わる声にそそられて、猛り狂う欲望のままがりっと歯を立てる。
「ひぎっ」
いじらしいもんだ。目、見開いてがたがた震えてる。肘打ちの一発でも食らわせれば簡単に逃れられるってぇのに。
顎の力を抜く。ゆるく吸って、開いた舌で舐める。顔から強張りが抜けて、うっとりした笑みに変わる。引きつった悲鳴は甘い吐息に。誘われて、唾液を丹念にからめて、強弱つけて。とにかく夢中になって吸っていると……
「いつまで……啜ってる」
「うぇ?」
「それはNipple(乳首)だ、tipple(酒)じゃない」
わぉ、最高にCoolだね。(潤んだ瞳で、声が震えてなけりゃね)
しぶしぶ口を離すと、彼は目を閉じてため息をついた。(切なげに聞こえるのは、俺の思い込みだろうか)
緩い弧を描く歯型がくっきりと、捩れた角度で白い肌に刻まれる。明日の朝。いや、今日の夜にはどんな色になってるだろう。想像しただけでまた、ぞわっと肌が泡立つ。
「もったいつけるな。さっさと、動け。それとも、もう腰が抜けたか?」
「……言うね」
体を起こす。改めて背後からがっちり押さえ込み、小刻みに腰を揺すった。
「あ、あっ」
「突いてほしいんなら、そう言えばいいんだ。この意地っ張りめ」
「い、言えば、ちゃんと動いたかっ?」
わかってらっしゃる。
「余計に、変なことして、焦らすだろお前っ」
その通り。
「OKOK。それじゃ、真面目に掘るから」
「う、あ、うぁっ」
「しっかり踏ん張れよ、ヴィヴィちゃん」
言い返す余裕は既に無いらしい。
「はっ、はっ、はあっ、はっはっは、う、んうぅんっ」
押し込むほどに咽奥から零れる切なげな吐息。次第に音が混じり、やがて声の比率がどんどん増えて、しまいにゃ可愛い鳴き声に変わる。その些細な変化が、克明に聞き取れる。
浴室万歳、タイルの音響効果に感謝。
「く、ふっ、おっ、あ、んぅっ」
濡れた体と体がぶつかりあい、弾き合う生きた肉のドラムの連打。一緒になって昂ぶる自分の、獣みたいな喘ぎすら耳に心地よい。
音が変に生々しいせいか、もう動きにスパートがかかってる。(何がっついてんだか)
その上、V.Iまで自分から尻振ってるんだから……効果倍増だ。
「気付いてたか? 君のお尻、セックスの後で真っ赤になってるんだ。俺の腹とタマがぶち当たって、それだけで、きれいなコーラルピンクに染まる」
「言うなっ!」
「イっちまえよ、ヴィヴィ。どうせ風呂だ、どんなに汚れたってすぐに洗える……そ……らっ」
リズミカルに弾む尻をぐいと引き寄せ、腰をくり出す。より深く抉り込むために。
「く、う、う、ううーっ!」
不規則な律動。尻の穴が。中が。別の生き物が乗り移ったみたいにのたくり、うねる。それでも足りずに自分から尻を突き出し、ぐいぐいと押し付けてくる。
欲しがってる。貪ってる。
「や……あ、あぁ、フジイ、フジイ、もっ、ダメ、ダメだ、ダメだ、ダメだっ」
ダメと叫ぶたびに、穴が締まる。絞り上げられる。たまらない。
「止まらない、止まらない、あぁ、もうっ、我慢できないっ」
「おうっ」
「あ、あ、お、あぁうぅっ」
せっぱ詰まった悲鳴がトリガーを引く。二人して狂ったように腰を振った。振って、揺すって、ぶつけ合って……ぱちん、と弾ける。
「んぅーっっ!」
彼の中と、外でほぼ同時に。吹き上がる白濁がぴちゃぴちゃとタイルに落ちる。ボディーソープに似てるが、こいつは一ヶ所に凝ってなかなか流れない。
雄臭い蒸気に包まれて、貪る穴と抉る棒。びっちりみっちり繋がったまま伸し掛かり、荒い熱い息を吐く。
「あー……」
恍惚とした顔をなで回し、昇りつめた声を聞きながら。震動を感じながら、手探りで蛇口をひねる。
降り注ぐ温かい雨を浴びて湯気の中、ひとときの休息に浸る。(一回だけで終わるはずがないってのは、どっちも承知の上)
右耳のピアスをしゃぶり、舌先で弄んだ。
「こっち向けよ、ヴィヴィ。それとも事後のキスもさせてくれないのかい?」
咽奥で低く唸ってる。(この状況でそんな声出すか?)
「その名前で呼ぶな……このエロ中年」
肩越しに振り返る瞳はお湯以外のもので濡れていた。切なげに眉をしかめて、途切れ途切れに告げられる。
「ぶち犯すぞ」
こりゃまた何とも可愛い、脅し文句。
「んっ」
「うぅ……」
無茶な姿勢に背筋が軋む。それでも口付けせずには、いられなかった。
ラブリー・ラバー・ダック
「ほら、もっと足開けよV.I」
「う……簡単に、言うな」
眉をしかめて吐き出す男の膝には既に力が入らず、小刻みに震えている。まるで生まれたての子鹿みたいに。
コーカソイド特有の透けるように白い肌には赤みがさし、特に尻の双丘は濃く円を描く。まるでそこだけ、何度も繰り返しどこかに打ち付けたように。
「っくぅっ」
足をわずかに開いたものの、直後、眉をしかめて呻く。
彼は決してひ弱な男ではない。太く、頑丈な骨格を覆うのは厚みのある筋肉。常に鍛え、指の一本、肉の一筋に至るまで鍛練された体は闘犬、あるいは戦馬にも似て。
しかし、戦場における強さがそのままベッドの上で通じるかと言えばさにあらず。
夜通し掘られまくった揚げ句、起き抜けにさらに抜かずに2Rとくればいかな鍛えた足腰とて震えが来る。
「OK、それじゃ後は俺が開いてさしあげましょう」
「あ、うっ、よせ、フジイ! 自分でやる!」
何もかも今、楽しげに尻に顔を寄せている東洋人のせいだ。身長はV.Iと呼ばれた男に比べれば低く、体格も華奢。とは言えあくまで比較の問題であって、この男も故国では充分に『ガタイの良い』部類に入るのだろうが。
しかしその均整の取れた体つきと筋肉はあくまで人目を……さらに言えば男の目を意識して作られた物であって、実戦向けの体ではない。
方や観賞用、方や実戦用、寄り添えば差は一目瞭然。この二人の肉体は、根本的にコンセプトそのものが違う。
内面においてもまた然り。
「無理言うなってぇ。膝が笑ってるぜ、ヴィヴィ」
「貴様ぁっ!」
振り仰ぎ、にらみ付ける鳶色の瞳。
(まるで黒のベルベットに落としたガーネットだ。それもとびっきり色の濃い奴)
秘かに胸を時めかせながらフジイは目元に細かな皴を寄せ、笑み返す。和やかとしか言いようのない声とまなざしで。
「俺に委ねてくれよ。なあV.I」
「………」
鳶色の瞳が閉じられる。分厚い傷だらけの体から力が抜ける。
「さんきゅ」
投げキッスの音が浴室に響く。
「いいから。さっさとやれ!」
「仰せのままに」
引き締まった尻肉が開かれる。奥に隠れたピンク色の蕾……未だ充血が引かず、呼吸に合わせて金魚の口みたいにぱくぱくと開閉する肉厚の穴を左右に押し広げると、ぬちっと湿った音がした。
「入れるよ」
「ん……」
ひだが伸び切るほど目一杯広げられた穴に、男の指が潜り込む。入れる男は顔を紅潮させ、入れられる男のほとんど閉じたまぶたの隙間に潤んだ瞳が光る。
「……あっ」
「すまん、痛かったか?」
「いや。続けろ」
「OK」
慎重に内部をまさぐり、ゆっくりと手前に引き出す。指の動きに合わせて肉の門がひくひくと震える。次いで内側から押し出されるようにして膨らみ、白く凝った精液がぷちゅっと吹き出す。
「っくっ」
「俺、こんなに君ん中に出してたんだなあ」
「いちいち報告するな……っ」
男の喘ぎに呼応して、またぷちゅり。後から後からとめどなく、途切れず滔々と流れ落ちる。
「ごめん。今度から風呂場にもゴム置いとくよ」
「それ……は、風呂場でするのが前提ってことか?」
「備え有れば憂い無し、だよ。ボーイスカウトで習わなかったかい?」
「は?」
「ジョークだよ……」
「う、っくっ」
ぷちゅり。
まさぐる指の動きに誘われて、一度すぼまり、再び盛り上がったアナルから潮を吹くように白濁した粘液が噴き出す。
「はぁっ、はあ、はあ……」
震えながら内側に縮みかける穴めがけて、さらにぬるま湯が注がれる。
「もう少しだから」
「んっ、うぅっ」
お湯で薄められ、半ば透明になった精液がぴちょりと一筋。またひと吹き。次第に勢いを失い、色が薄くなる。
もはやたらたらと滴るだけになったお湯を、いとおしげに指でひと拭い。ひくつきながらアナルがすぼまり、あるべき形に収まった。
「………終わったよ」
「ああ」
向き直る恋人の体を抱きしめる。
「お疲れさん。お湯、張っといたからあったまれ」
小刻みに震えながらもV.Iは素直にうなずいた。
「……あぁ……」
支える腕に身を委ね、バスタブに満たした湯にゆっくりと体を沈める。アメリカではついぞ馴染みの無い入浴法を最初に教わった時は驚いた。
しかしこう言う時は、ありがたい。
体が楽になる。シャワーを浴びるよりずっと、温まる。
「詰めろよ」
「あぁ」
そして、当然のようにフジイも入って来る。男二人が余裕で差し向いで入れる巨大なバスタブ。またしゃくに障る事に、お湯の量はあらかじめ、二人で入っても零れない程度に調節されていた。
もっともさすがに伸ばした脚は互いに触るし、軽く膝を曲げなければ収まりきらない。だがそれでも一向に構わない。触れ合っても、くつろげる。
それぐらいには、馴染んでいる。
両手ですくいとったお湯で顔を流し、目を開けると鮮やかな黄色が目に入った。別に今日初めて見た訳じゃない。前に入った時からそいつはそこにあった。いや、居たと言うべきか?
「どーした、V.I?」
「いや……前から気になってたんだが」
作り付けの棚(シャンプーやらボディーソープを並べるための場所だ)にちょこんとうずくまる黄色い物体を指さした。
「何で、お前んとこの風呂にはラバーダッキー(ゴムのアヒルちゃん)が置いてあるんだ?」
「ああ、これな」
掲げた腕からお湯がしたたる。アヒルをつまみあげる動きは手慣れたもの。
「実はこれ、マッサージャーなんだ」
背中を押すと、なるほど。ブゥーンとかすかな音を立てて震動する。かなり強そうだ。
「お湯であったまって、体がほぐれてきたとこでこーやって、当てる」
肩にアヒルを当てて目を閉じて、「うぃー……」と呻く。フジイの姿を見て、たまらずぷっとV.Iが吹き出した。
顎髭生やした四十男ときょろんとした目の可愛いゴムのアヒルちゃん。ミスマッチにも程がある。
「あんだよぉ」
「オヤジ臭いぞ」
「オヤジだし?」
首筋から肩へと何度もアヒルを滑らせている。うっとりと目を閉じて、唇から零れる声が次第に蕩けて行く。
単に強ばった肩がほぐれてるだけなのだ。そう言い聞かせても抑え切れない。どうしたって重なってしまう……さっき聞いたばかりの生々しい喘ぎに。
(あの夜以来、こいつは素直に声を出す)
抱かれている時も。抱いている時も。
「あぁ……」
「そんなに、気持ちいいのか?」
「ん」
ぱちりと目を開けた。
「あぁ。すごーく気持ちいい」
「ふぅん」
「試してみるか?」
「……」
「心配すんな、これ、完全防水だから」
真面目に考え込む恋人の肩にぽん、と手を当てフジイは身を乗り出す。
「きっと、病みつきになるぜ」
V.Iはまだ気付いていなかった。
にんまりとつり上がる口角の皴の意味に。
震動するアヒルが触れて、お湯の表面に波紋が浮かぶ。そして………。
「あっ、やめ、どこに当ててるっ、あ、あっ」
跳ねる水音に混じり、悩ましげな野郎の艶声が浴室に響く。
「……な、気持ちいいだろ?」
「この、変態っ」
「知ってる」
lunch? brunch?
「なあ、これ昼飯なのかな朝飯なのかな」
「ブランチと考えればいいんじゃないか?」
風呂上がり。雑に服を来てキッチンに並ぶ。さすがにV.Iは足下がおぼつかないようで、シンクやテーブルに寄り掛かって体を支えてる。
「寝てりゃいいのに」
「はン! ベッドにいたらお前、問答無用でおっぱじめるだろ」
……ばれたか。
「当然。君が黒Tシャツにスエットの下だけ、なぁんて色っぽい姿してんのに素通りするとか」
泡立て器を片手にかまえて突きつける。
「有りえないね」
「……いいから、混ぜろ」
「へいへーい」
目一杯、キメ顔アピールしたんだがあっさりかわされた。
つれないね、ヴィヴィ。(だがそこがいい)
市販のワッフルミックスをボウルに入れて卵と牛乳を投入、ダマができないようにひたすら混ぜる。
いろいろ試してみた結果、パンケーキミックスよりこっちの方が口に合うってことで双方合意に至った。箱裏のレシピより若干、牛乳を多めにして、平べったく焼けば立派にパンケーキとして成立する。
若干口当たりがもっちり仕上がるのが『美味い』と言われたし、俺もそう思ってる。
コンロにかけたフライパンにバターを落として炙る。充分動いたんだ、これぐらいのカロリー摂取は許容範囲内だろう。
溶ける頃合いを見張ってると……。
「フジイ」
「ん、どーした?」
ベランダに面した窓を凝視していた。
「お前、猫、飼ってたのか?」
かりかりと小さな音。ガラスに映る真っ黒なニクキュウ。ふかふかの銀色の毛皮に覆われた猫が一匹、ちょこんと座っている。
「ああ、時々遊びに来るんだ」
窓を開けると待ちかねたように体をくねらせするりと滑り込む。赤い口をかぱっと開けて、甲高い声で一鳴き。
途端にヴィヴィちゃん、目を丸くした。
「……フジイ! 鳴いたぞ!」
「腹へってんだろ。よーしよし、ちょっと待ってろなー」
「足にすり寄ってるぞ!」
「撫でろっつってんだよ撫でてやれよ」
V.Iは床に膝をついてしゃがみこみ、ためらいながらごっつい手を延ばした。
ぎこちない手つきで、綿菓子みたいな毛並を撫でる。
「フジイ、フジイ、大変だ」
「今度はどうした」
「ゴロゴロ言ってるぞ!」
「………そりゃあ、猫だし」
身長6フィート越えのガタイのいい男が。筋肉モリモリのマッチョマンが。四十越えたおっさんが、頬そめて猫を撫でてる。しかもうろたえてる。
(ああ、もう、可愛いなあこいつ。今すぐしがみついて、髪の毛ワシャワシャかき回してぇえっ)
一方、銀色猫はぐんにゃりとリラックスして伸び切ってる。何事か察したかこっちを見て、またかぱっと赤い口を開けた。
透き通った声は、さっきより幾分、語尾が強い。
「はいはい、どうぞ」
小皿を床に置く。
さらにキッチンから持参した円柱形の缶の蓋を開けて、中味をさらさらと皿にあけた。
猫は待ちかねたと言わんばかりに起き上がり、さくさくと食べ始める。
「何だこれ」
「ニボシ」
「……日本じゃ猫用のドライフィッシュがあるのか?」
「そう言うのもある」
自分用に一匹取って口にくわえた。
「これは人間も食える。食うか?」
「マジか」
「カルシウム豊富だぞ?」
「……」
まさか、くわえたのを半分持ってかれるとは予想外。もちろん口で。直に口で。
「…………!」
何をされたか、気付くまでに約三秒、直後に体の奥底から込み上げた熱が、ぶわっと顔の表面に広がる。
「割と美味いな」
「お、おう」
ぽりぽりかじりながら、V.Iはシリアルボウルを一つとって、水を汲んで猫の隣に置いた。
「だが口がパサつく」
「ドライだから」
ついでに自分もコップに注いで飲んでる。
(そーかそーか、君もニボシ気に入ったか、子猫ちゃん)
そんな事考えながらぼやっとしてたら、コンロの方角から妙に香ばしいにおい。
「焦げてるぞ」
「おおっとぉ!」
※
幸い、被害はバター大さじ一杯で食い止められた。
洗い直したフライパンで改めてパンケーキを焼く。
「サニーサイドアップ(片面焼き)でいいか」
「ああ」
同じフライパンでかりかりになるまベーコンを焼いて、さらに仕上げに目玉焼きを二つずつ、合計四つ。
まとめて大皿に盛りつけ、マグカップに注いだコーヒーを添える。
「ミルク入れるか?」
「少しもらう」
紙パックから直注ぎ。ついでに自分のカップにも入れる。濃い褐色の液体に混じり、とろりと白いミルクが解けて拡散して行く。
「……フジイ」
「ん」
「目つきが卑猥だ」
「………気のせいだよ。メープルシロップ使うかい?」
「もらう」
冷蔵庫から出した大瓶を、どんっとそのままテーブルに乗せる。位置は真ん中からちょいとV.Iの席に寄せて。
「お好きなだけどうぞ?」
朝飯のような昼飯のような、とにかくブランチと言っときゃよさげな半端な飯。もくもく手を動かして食う間、銀色の猫はV.Iの足下に座ってる。きちっと後脚を畳んで見あげてる。
「フジイ」
「どうした」
「猫が見てる」
「おすそ分けを要求してんだろ」
「………」
ぶっとい指でパンケーキをちぎって、屈んで、差し出してる。猫は鼻をうごめかせてにおいをかいでから、ぱあっと顔を輝かせ……
「食べたぞフジイ!」
「そうか、よかったな」
「舐めてるぞ、俺の指」
「美味かったんだろ」
「ざりざりしてる」
「猫だからな」
「くすぐったい」
「……V.I」
「何だ」
「可愛い」
「そうだな」
予想外の素直な返事。それも道理、目の縁に細かい皴を浮かべ、鳶色の瞳が優しく見守ってるのは猫。あくまで猫。
「……うん、可愛い」
気付いてないなら、そのままにしとこう。
※
食べ終わってからも、二人の男は猫をぼんやりと見守っていた。後脚を畳んで床に座り、てちてちと念入りに前足をなめて。舐めた足で顔を拭う。そんな仕草を飽きる事なく。
「この猫どこから来たんだ?」
「さあ? ペット可物件だからな、ここ。同じフロアの部屋からじゃないかな」
「ベランダづたいに?」
「多分ね」
「勇気あるな」
「猫だし。案外、羽根でも生えてたりしてな? ル・グウィンの絵本みたく」
「……お前、俺をからかってるだろ」
「ははっ、まさか」
フジイが手を伸ばし、わしゃわしゃと赤みの強い鳶色の髪をなで回す。
「可愛がってるだけだよ」
「このっ」
じゃれあう中年二人を、金色の瞳がじっと見ていた。
「……ぴゃあ」
(さっさと挿れろ/了)
十海
2015-06-08 02:01:32