樹雨のそぼ降る深い深い森の奥、閉ざされた薄闇の中でただ貪り合う。
極上の翠玉は、長い睫毛が縁取る瞼に隠されたまま。歌仙は柔らかくいつもそうだった。いつも、そうして静かに瞳を閉じて、燭台切のすべてを受け止め、何もかもを熔かすような熱に身を委ね、咲き乱れる。
長く繊細な指先で、燭台切の躰に走る火傷痕をなぞり、耳から首へ、そして鎖骨からさらに下へと流れていく口吻けに蕩けるように綻ぶ。
「甘いなあ。」
琥珀と銀玻璃の燭台切の両眼が、どこか飢えたような光を湛えて歌仙を見下ろす。見つめる熱に気づいた歌仙が、緩やかにその重たげな瞼を開けた。
「何がだい。」
睡月の下の琴のような声音は、ともすれば降りしきる雨の音に掻き消えそうなほどに小さく。しかし、寸暇を惜しんで歌仙の肌を味わう燭台切の、形の良い耳は常に歌仙の唇にほど近く。
「声も体も、歌仙くんは甘いなあ、って。」
舌先で軽く眼もとに触れながら、燭台切が答える。「綺麗な目だよね、やっぱりそこも、甘そう。」
見てるだけで喉の奥が甘くなってきそうだよ。低く掠れたその聲で続ける。
「僕のこと見て、歌仙くん?」
「君のその言い様の方が、よほど甘いじゃないか。」
甘い蜜に漬け込みくつくつと煮込んだような燭台切の、懇願とも命令ともとれる言葉に軽く頭を振り、歌仙はその両腕を燭台切の頭の後ろに回した。
「君の熱、君の声、この体を貫く君の形、何もかもをより深く感じられるんだ。」
言いながら、彼の人の頭を引き寄せる。琥珀の左目と、火竜のような火傷痕の残る銀玻璃の右目とに軽く唇を寄せてから、当惑したように薄く開いたままの唇に食らいつく。
吐息のすべてを飲み込むように激しく深く、欲を煽るように妖しく。
「この目で君を捉えなくても、いいじゃないか。」
息継ぎの合間、甘い甘い歌仙の声が、雨の音に溶け混じりながらひたひたと燭台切の意識を揺らす。
それは、猛毒。一度食らえば二度と再び離させない魔性。その、魔性が優美な笑みを浮かべて誘う。
「君の居場所は僕の中さ。そうだろう、燭台切?」
言いながら内壁をうねらせ、底のない毒の海の気怠い甘さで歌仙のすべてが燭台切を捕まえて離さない。
樹雨の森は、二人が自ら閉ざした甘い毒の檻。何時醒めるのか、永久に醒めぬのかもしれない深い深いその淵で、今宵も互いを貪りながら果ててゆく。
極上の翠玉は、長い睫毛が縁取る瞼に隠されたまま。歌仙は柔らかくいつもそうだった。いつも、そうして静かに瞳を閉じて、燭台切のすべてを受け止め、何もかもを熔かすような熱に身を委ね、咲き乱れる。
長く繊細な指先で、燭台切の躰に走る火傷痕をなぞり、耳から首へ、そして鎖骨からさらに下へと流れていく口吻けに蕩けるように綻ぶ。
「甘いなあ。」
琥珀と銀玻璃の燭台切の両眼が、どこか飢えたような光を湛えて歌仙を見下ろす。見つめる熱に気づいた歌仙が、緩やかにその重たげな瞼を開けた。
「何がだい。」
睡月の下の琴のような声音は、ともすれば降りしきる雨の音に掻き消えそうなほどに小さく。しかし、寸暇を惜しんで歌仙の肌を味わう燭台切の、形の良い耳は常に歌仙の唇にほど近く。
「声も体も、歌仙くんは甘いなあ、って。」
舌先で軽く眼もとに触れながら、燭台切が答える。「綺麗な目だよね、やっぱりそこも、甘そう。」
見てるだけで喉の奥が甘くなってきそうだよ。低く掠れたその聲で続ける。
「僕のこと見て、歌仙くん?」
「君のその言い様の方が、よほど甘いじゃないか。」
甘い蜜に漬け込みくつくつと煮込んだような燭台切の、懇願とも命令ともとれる言葉に軽く頭を振り、歌仙はその両腕を燭台切の頭の後ろに回した。
「君の熱、君の声、この体を貫く君の形、何もかもをより深く感じられるんだ。」
言いながら、彼の人の頭を引き寄せる。琥珀の左目と、火竜のような火傷痕の残る銀玻璃の右目とに軽く唇を寄せてから、当惑したように薄く開いたままの唇に食らいつく。
吐息のすべてを飲み込むように激しく深く、欲を煽るように妖しく。
「この目で君を捉えなくても、いいじゃないか。」
息継ぎの合間、甘い甘い歌仙の声が、雨の音に溶け混じりながらひたひたと燭台切の意識を揺らす。
それは、猛毒。一度食らえば二度と再び離させない魔性。その、魔性が優美な笑みを浮かべて誘う。
「君の居場所は僕の中さ。そうだろう、燭台切?」
言いながら内壁をうねらせ、底のない毒の海の気怠い甘さで歌仙のすべてが燭台切を捕まえて離さない。
樹雨の森は、二人が自ら閉ざした甘い毒の檻。何時醒めるのか、永久に醒めぬのかもしれない深い深いその淵で、今宵も互いを貪りながら果ててゆく。