<sleeping knight>
あの胸糞悪い事件から一晩、疲労で倒れただけだったので、一足先に退院となったサクヤをアキラの家に送り届けて(生憎車は免許がないのでタクシーで)
とりあえず俺一人で病院に舞い戻ることにした。
最初はサクヤも渋ったが、「まだ大人しく寝とけ。」としつこく言い含めると、しぶしぶだが頷いてくれた。
流石獣医といっても医者の卵、自分の体調がいまいちなのは理解できてるようで何よりだ。
いくら血が近くて共感や同調が出来るとは言え、過去視に治癒とメリィの能力借りまくったのだから、あと数日はゆっくり休んでもらいたいところである。
清潔な病室に足を踏み入れると、眼帯と包帯でいまだ痛々しい姿の彼……フジイ アキラがベッドに腰かけて窓の外を眺めていた。
「よ、アキラ。」
「ユージ、サクヤと帰ったんじゃなかったのか?」
「サクヤ寝かせて戻ってきたんだよ。おや、お前の愛しのヴィヴィちゃんは?」
「仕事だっつってさっき戻ってった。また仕事終わったら来るってさ。」
「おや、お熱いねぇ。」
「かわいいだろ?」
「言ってろ。」
したり顔で言うもんだから、デコをツンとつついてやる。微かに聞こえていた「心の声」が、近づくことでハッキリと聞き取れる。
世間じゃこういうのをテレパスというらしいが、まあそこはどうでもいい。大事なのは聞こえる声だ。
『早く帰って一緒に寝たい。』『彼が恋しい。』『眠るのが……怖い。』
ほんっとに、こいつは……心の中まで悲観混じりの惚気なのが余計に腹立たしくて、つついたデコをピンッ、とはじいてやった。
「あいてっ。」
「折角見舞いに来てやったのに愛しのヴィヴィちゃんで上の空たぁ良い度胸だな、ん?」
「……なんでわかるんだ。」
「お前が分かりやすいだけだよ。」
「そうかぁ…?」
「そうだよ。」
訝しげに首を傾げるアキラにしれっと返してやる。ほんとに、相変わらず痛みも弱音も、外に出さない奴だ。
多分恋人にも、ギリギリまで弱音を吐かないだろう。難儀な男だ。しかも碌に寝てないと来てる。
仕方ない……10年ぶりくらいだが、あの手でいくか。
「また後でヴィンセントが来るんだろ?お茶淹れてやるから、それ飲んで寝てろ。」
「いや、まだ眠くないんだが。」
「来たときに眠くなってもしらねぇぞ?良いから言う事聞いとけ。」
「……おう。」
渋々だが頷いた彼に、携帯式のティーセットを取り出して茶を用意する。沸かして魔法瓶に入れておいたお湯をポットに注いて温めて、
ラベンダー レモングラス カモミール ネロリ……飲みやすく胃の優しく、眠気を誘うものを選び、ポットにティースプーン一杯ずつ放り込んで軽く揺すり…再度お湯を注ぎ入れる。
『さぁさ、お前達……ちょいと力を貸しとくれ。傷ついた子が穏やかに眠れるように。悪い夢を見ぬように。』
そっと囁くように唱えながらお湯と『想い』を注ぐのが、祖母ちゃんから習った秘伝の淹れ方。注いだら素早く蓋を占めて3分程蒸らしたところで、ティーポットに茶こしを使って茶を注ぎ入れる。
淡く色づいたハーブティの香りに、スンと軽くアキラが鼻を鳴らした。10年前と変わらぬ仕草に、思わず笑みが漏れる。
「良い匂いだな。」
「そりゃ本業だからな、当然だろ。ほい、お待ちどうさま。」
「さんきゅ。……本業って、喫茶店のマスターか?それとも……」
「なーいしょ。さ、ゆっくり、香りを楽しみながら飲んどくれ。」
「ん……美味しい。」
受け取ったティーカップを両手で持って啜る彼がほう、と息を吐く。一口、二口と飲み進める度に、いつの間にか彼の恋人のように寄っていた眉間の皺が解れていく。
ティーカップが空になる頃には、寝ろと俺が口にした時から少しばかり強張っていた体から力が抜けて、恋人に縋るような心の声が少しばかり、柔らかくなっていた。
さて、あともう一押しだ。
「ごちそうさま。」
「お粗末様、ほれ……横になって寝とけ。」
「ん。……ありがとな、ユージ。」
「……どういたしまして。子守歌でも歌ってやろうか?」
「それはいらない。」
そっと、ベッドに横になって目を閉じる隻眼となってしまった彼の瞼を、手で覆うように閉じさせて枕元に乾燥させたラベンダーがつまった小袋を置く。
そのまま少し眼を閉じさせたままでゆったりと過ごしているうち、穏やかな寝息が聞こえて来た。
そっと手を離し、ティーセットを片付けて、部屋を後にする。祝福のキスでもしといてやりたいが、それは俺の仕事じゃないだろう。
安心して眠ると良い。この眠りだけは、悪夢に苛まれる事はない。ハーブの香りに守られて、ゆっくり……体と心を休めれば良い。
目覚めは彼の愛しい人がもたらしてくれるだろうから。
「……おやすみ、アキラ。」
<sleeping knight END>
あの胸糞悪い事件から一晩、疲労で倒れただけだったので、一足先に退院となったサクヤをアキラの家に送り届けて(生憎車は免許がないのでタクシーで)
とりあえず俺一人で病院に舞い戻ることにした。
最初はサクヤも渋ったが、「まだ大人しく寝とけ。」としつこく言い含めると、しぶしぶだが頷いてくれた。
流石獣医といっても医者の卵、自分の体調がいまいちなのは理解できてるようで何よりだ。
いくら血が近くて共感や同調が出来るとは言え、過去視に治癒とメリィの能力借りまくったのだから、あと数日はゆっくり休んでもらいたいところである。
清潔な病室に足を踏み入れると、眼帯と包帯でいまだ痛々しい姿の彼……フジイ アキラがベッドに腰かけて窓の外を眺めていた。
「よ、アキラ。」
「ユージ、サクヤと帰ったんじゃなかったのか?」
「サクヤ寝かせて戻ってきたんだよ。おや、お前の愛しのヴィヴィちゃんは?」
「仕事だっつってさっき戻ってった。また仕事終わったら来るってさ。」
「おや、お熱いねぇ。」
「かわいいだろ?」
「言ってろ。」
したり顔で言うもんだから、デコをツンとつついてやる。微かに聞こえていた「心の声」が、近づくことでハッキリと聞き取れる。
世間じゃこういうのをテレパスというらしいが、まあそこはどうでもいい。大事なのは聞こえる声だ。
『早く帰って一緒に寝たい。』『彼が恋しい。』『眠るのが……怖い。』
ほんっとに、こいつは……心の中まで悲観混じりの惚気なのが余計に腹立たしくて、つついたデコをピンッ、とはじいてやった。
「あいてっ。」
「折角見舞いに来てやったのに愛しのヴィヴィちゃんで上の空たぁ良い度胸だな、ん?」
「……なんでわかるんだ。」
「お前が分かりやすいだけだよ。」
「そうかぁ…?」
「そうだよ。」
訝しげに首を傾げるアキラにしれっと返してやる。ほんとに、相変わらず痛みも弱音も、外に出さない奴だ。
多分恋人にも、ギリギリまで弱音を吐かないだろう。難儀な男だ。しかも碌に寝てないと来てる。
仕方ない……10年ぶりくらいだが、あの手でいくか。
「また後でヴィンセントが来るんだろ?お茶淹れてやるから、それ飲んで寝てろ。」
「いや、まだ眠くないんだが。」
「来たときに眠くなってもしらねぇぞ?良いから言う事聞いとけ。」
「……おう。」
渋々だが頷いた彼に、携帯式のティーセットを取り出して茶を用意する。沸かして魔法瓶に入れておいたお湯をポットに注いて温めて、
ラベンダー レモングラス カモミール ネロリ……飲みやすく胃の優しく、眠気を誘うものを選び、ポットにティースプーン一杯ずつ放り込んで軽く揺すり…再度お湯を注ぎ入れる。
『さぁさ、お前達……ちょいと力を貸しとくれ。傷ついた子が穏やかに眠れるように。悪い夢を見ぬように。』
そっと囁くように唱えながらお湯と『想い』を注ぐのが、祖母ちゃんから習った秘伝の淹れ方。注いだら素早く蓋を占めて3分程蒸らしたところで、ティーポットに茶こしを使って茶を注ぎ入れる。
淡く色づいたハーブティの香りに、スンと軽くアキラが鼻を鳴らした。10年前と変わらぬ仕草に、思わず笑みが漏れる。
「良い匂いだな。」
「そりゃ本業だからな、当然だろ。ほい、お待ちどうさま。」
「さんきゅ。……本業って、喫茶店のマスターか?それとも……」
「なーいしょ。さ、ゆっくり、香りを楽しみながら飲んどくれ。」
「ん……美味しい。」
受け取ったティーカップを両手で持って啜る彼がほう、と息を吐く。一口、二口と飲み進める度に、いつの間にか彼の恋人のように寄っていた眉間の皺が解れていく。
ティーカップが空になる頃には、寝ろと俺が口にした時から少しばかり強張っていた体から力が抜けて、恋人に縋るような心の声が少しばかり、柔らかくなっていた。
さて、あともう一押しだ。
「ごちそうさま。」
「お粗末様、ほれ……横になって寝とけ。」
「ん。……ありがとな、ユージ。」
「……どういたしまして。子守歌でも歌ってやろうか?」
「それはいらない。」
そっと、ベッドに横になって目を閉じる隻眼となってしまった彼の瞼を、手で覆うように閉じさせて枕元に乾燥させたラベンダーがつまった小袋を置く。
そのまま少し眼を閉じさせたままでゆったりと過ごしているうち、穏やかな寝息が聞こえて来た。
そっと手を離し、ティーセットを片付けて、部屋を後にする。祝福のキスでもしといてやりたいが、それは俺の仕事じゃないだろう。
安心して眠ると良い。この眠りだけは、悪夢に苛まれる事はない。ハーブの香りに守られて、ゆっくり……体と心を休めれば良い。
目覚めは彼の愛しい人がもたらしてくれるだろうから。
「……おやすみ、アキラ。」
<sleeping knight END>
十海
2018-09-05 22:46:19
ありがぴゃあ!
by い~ぐる 2018-11-14 12:53:26