主が審神者になってから一年以上は経っていると聞く。普段の本丸はたくさんの刀剣男士達でにぎわっているが、今日はそうではない。
「おーい正国ぃ」
縁側で腰を下ろしていると、どこからか御手杵の声が聞こえる。というか御手杵の声しか聞こえない。
時間は日が沈み、月が見え始めたところ。普段ならまだまだ騒がしい時間帯である。
「お、いたいた」
両手に団子を持ちこちらに駆けてくる御手杵はどこか嬉しそうだ。
「なんだ、団子なんかもって」
「いや、夕飯がなんか味気ないと思ってな」
俺に一本渡して隣に座る。
「まぁ、歌仙や燭台の旦那がいないと、こじゃれた料理は無理だろう」
「だよなぁ、さすがにまだ遠征から帰ってこないだろうな」
俺と御手杵を除いた男士達は、全員遠征ないし夜戦へと行っている。俺も普段なら夜戦へと繰り出すのだが、先日本丸入りした虎徹の弟が代わりに入り、休暇となったのだった。そして主は会議だとかで近侍の山姥切と出かけてしまった。
つまるところ、いま本丸にいるのは俺達だけなのだ。
「正国はこんなゆっくり月なんか見るのなんて久しぶりだろ?」
「そうだな、普段は月よりも敵を見ないと折れちまうからな」
「だろ? 俺はいつもここで見てるけどな……」
そこまで言うと御手杵は不意に黙る。俺が隣を見遣ると御手杵は顔を真っ赤にしていた。
「あんたと見る月はその……より一層……綺麗だな、って」
「月がそんなに変わってたまるかよ」
「……だよなぁ、通じないよなぁ……」
なぜか落胆し始めたこいつをほっときつつ、俺は団子を黙々と食す。
まぁ月は綺麗だが、それよりも団子が硬くなるほうが嫌だ。御手杵は団子には目もくれずただ月を眺めているようだが。
「それにしてもほんっと珍しいよな、本丸にほとんど誰もいないなんて」
たしかに、と俺は同意する。
「俺は結構初めのほうに来たがそれでも結構騒がしかったからな」
5振り目に来たが、その前に居たのが歌仙、堀川、和泉守、陸奥守だったから、そこそこすでに騒がしかった。今では仲が良いものの、昔は毎日、和泉守と陸奥守が喧嘩をしていて、よく怒鳴り込みに行っていた。
「俺は最後のほうに来たからなぁ、喧嘩するあいつらなんて全然想像つかないなぁ」
「だろうな」
俺が肯定をすると静寂が俺達を包む。
数秒か、それとも数分か。静かな本丸になる。
しかし突然、俺はとある気配を捉えた。
「なぁ御手杵」
「は、はい!?」
すぐに俺は、姿勢を変えず背中へと腕だけ動かす。俺の臀部の辺りに何かがあった。
「何俺のケツ触ろうとしてんだ?」
「いや、それは、あの」
「このすけべ」
御手杵を見上げながらすこし笑いながら言った。
御手杵はというと、途端に立ち上がると俺の手から串をひったくると。
「じゃ、じゃあ俺これ片付けてくるな! 正国はゆっくり月でも見ててくれ!」
と言い残すや否や走り去ってしまった。
ぽつん、と残された俺は特にやることも無く、ただただ月を眺めていた。
そういえば「月がきれい」という台詞はどこかで聞いたことがある。たしか歌仙が風流だなんだと説教しているときに聞いた気がするんだが……あれはなんだったか。
「ま、いいか」
俺は実戦刀だから、歌仙が言うような風流とやらにはもともと疎いし、知るつもりも無いからな。
途端に胸にズキリと強くは無いが、跡を残すような痛みが走る。
「ん、なんだ?」
服をめくって見てもとくに怪我はしていないようだし。
「気のせいか」
そう割り切ると、俺は御手杵に言われた通り、月を見ていた。
***
これは敵前逃亡なんかではない。とかそういう前に正国は敵じゃないから大丈夫だから、と心の中で呟きながら俺は厨へと向かっていた。
「折角、燭台切に口説き方教えてもらったのになぁ」
正国はその意味には気づいていなかったようだ。自分自身、人の身を授かっても刀と割り切っている正国にとって、風流とか恋とかはどうでもいいのだろうなぁ。
そう考えて自分の心にズキリというものが走った。
「あぁ、これが『好き』って言うやつなんだろうな」
審神者や加州も言っていた。好きで好きでどうしようもなくなる、っていう感情。
「こんな辛いのか……」
俺は厨に着いても中々、団子の串を捨てられずに居た。
あいつはきっとこれからも刀であり続けるだろう。戦うときは戦い、折れるときは足掻かずに折れるだろう。
「それだったらせめてお前くらいは一緒に居てくれたっていいよなぁ……」
俺は串に話しかける。もちろん返答は無い。
自分の串は塵箱に捨てると、正国の使った串は捨てることなくジャージのポケットへそっと入れた。
「お茶でも持ってくか」
どうせ今日は二人しか本丸にいないんだ。
なんなら今日で一生分、少なくとも俺が折れるまでの正国成分をもらおう。
「もう、これで諦められるように」
冷蔵庫から麦茶を取り出し、二人分の湯飲みへ注ぎ両手に持つと、正国の居るであろう縁側へと足を向けた。
「はい、お茶」
「おう、悪いな」
ずずず、とお茶をすする音が耳に響く。俺はその横顔をじっと眺める。
「んっ!?」
突然、正国が湯飲みから口を離す。とてもいぶかしげな顔をしていた。
「どうした?」
「なぁ御手杵」
正国は、俺の湯飲みを指差し、手だけで飲む仕草をする。つまり飲んでみろ、とのことだろうか?
茶を口に含んだ瞬間、俺の口内を苦味が侵す。エグみもそれに加勢するかのように押し寄せてくる。
「ぶふぉっ!」
それを頭が判断するや否やたまらず吐き出していた。
正国は「だろ?」と言いたげにしている。
「わりぃ、失敗しちゃったな」
普段しないことをしたおかげで好きなやつの目の前で大失敗をしてしまった。それを考えるだけで俺の顔は真っ赤に、熱を持つ。きっと正国は気づいていないだろう。
「なんだ、あんたって全然料理とかやったことないのか?」
「ち、ちがう! 少し考え事してただけだ!」
普通に作ればまぁ食えないことはない。
「へぇ、あんたでもそんな考える事とかあるのか?」
そうだよ、と言おうとして思わず口を開きそうになる。
お前のことが好きなんだけど、全く伝えられる自信が無いし、まずお前恋とかに興味あるの? と。
それが言えるのなら既に正国に告白している。
「んあー、あるっちゃーある」
「ふーん、そうか」
特に興味は無いようで、正国は湯飲みを持ちながらじっと、月を見ていた。
「別の本丸のやつの話なんだけどな」
「ああ」
聞かないと思っていただけに少しだけ驚く。が、続きをせがむような目で此方を見るので、口をまた開く。
「なんだか最近様子がおかしくてな。聞いてみたら別の刀にこ、恋をしてるんだと」
「へぇ」
「だけどその刀はなかなか恋とかいう人間みたいなことは興味ないらしくて」
「まぁ俺もそうだからな」
「そう……だな。んで俺にどうしたらいいか、って聞いてきたんだよ」
俺は恥ずかしさと情けなさに顔が熱くなった。
どうしてこんなことを、嘘をついてまで、しかもよりによって関係のあるやつに聞いているのか。
「まぁ、お前は恋愛とか興味ないしな! 変な話して悪いな!」
「普通に告白すればいいんじゃねーの?」
「え?」
正国の言葉に俺は一瞬目を見張る。
「なんだよ」
「いや、お前の口から『告白』だなんて言葉が聞けるとは思わなくて」
「主の持ってくる漫画に書いてあった」
主は現代でいうところの少女マンガを大量に本丸へと持ってきている。それを色々な刀剣達へと貸しているようで、正国も例外ではなかったようだ。
「つまるところ、その相手が俺みたいに人の感情とか興味ないから告白しても無理なんじゃないか、ってことだろ?」
「あ、あぁ」
「そういう時はとりあえず告白してみねぇとわからないんだよ、だから告白して、ダメだったら他の手を探せば良い」
真っ直ぐな目で俺を射抜く正国の瞳はとても綺麗で、月の光を映していた。
「まぁ、全部主の漫画に書いてあったんだけどな」
「なんだそれ」
俺はおおげさにこけたふりをするも、その正国が読んだ漫画に感謝していた。
「じゃあその別の本丸の刀に伝えておく」
「あぁそうしてくれ」
正国はすこし笑いながら肯く。
その笑顔を見て俺は確信した。
やっぱり、諦めるなんてできない。
特に何とも無いときの顔、おかしいときに大笑いしている顔、戦場での厳めしい顔、今みたいに二人のときに見せてくれる顔。
その全てが好きで、好きで、たまらく愛おしい。
今、この決心した気持ちを言葉にしなければ、三名槍の名が廃る。
そう、意を決したときだった。
「正国!」と、言おうとしたときだった。
「恋とか好きとかって、どんな感じなんだろうな」
***
「恋とか好きとかって、どんな感じなんだろうな」
俺は御手杵の話を聞いてふと疑問に思った。
「俺達は刀の時なんざ人の感情みたいなものは無かった。営みごとは見ていたけどな」
少し過去に目を向ける。
「考えとか感情ってのは人の身体を主にもらってからだ。だから興味ないとかもあるけど、俺は恋とか好きとかがわからねぇんだ」
主の漫画を読んでいるのはそういう人の感情を理解するため、という風に主から言われているものの読んだところでいまいちぴんと来ない。
「御手杵、お前知ってるか?」
聞かれた御手杵は、暗いから詳しくは見えないが、何か空を見ていて、顔を赤くしていた。
「御手杵?」
「あ! え?」
「風邪でもひいたのか?」
「ち、違う!」
そしてなんだか普段とは違う。
「んで、恋とはどんな感じなのかだって?」
「まぁ要約するならそんな感じだな」
御手杵は少しはにかむ様に、まるで漫画で見た『ヒロインが主人公に見せるような目』をしていた。
なんだか少し胸がズキリ、と痛くなった。
「恋ってのはな、案外苦しいもんなんだぜ? 相手が近づいてくると、なんだか緊張して胸が痛むんだ。一緒に居るときも緊張して顔が火みたいに熱くなるんだ。こんな時間早く終われ、って思うんだ。
それなのに相手と離れるときは、寂しくて悲しくて、胸がズキリと痛むんだ。相手が他のやつと話しているときも同じだな。なんだか気に入らないし悲しいしで胸が痛くなる。
でも、相手が笑顔をこちらに向けてくれると最高に嬉しいんだ」
そういうと、御手杵は満面の笑顔を此方へ向けた。
そして俺の心臓が一気に鼓動を早める。
これは一体何なんだ。
初めて人の身体になって刀をふるったときの高揚感とは違う。初めて誉れを取ったときとも違う。錬度が上がって強くなったときとも違う。
胸の高まり。
こいつの笑顔を見るとなんだか心が安らぐ。なんだかずっと御手杵といたい。御手杵と離れるのは嫌だ。御手杵の笑顔が見られると、とても、すごく、最高に、俺も嬉しくなる。
そうか、これが恋なのか。
俺は、御手杵に恋をしているのか。
「御手杵」
「な、なんだ!?」
「お前、好きなやついるだろ」
「え!?」
俺が言った途端に御手杵は湯飲みをおとした。
下が土だから割れなかったものの、茶は地に伸び、吸い込まれていった。
「お、おう。いるぜ」
「そうか」
漫画には、恋に負けた者は相手に告白して断られて諦める、そう描いてあった。
「なぁ、御手杵」
「な、なんだよ」
「俺、お前のことが好きみたいだ」
そして一つ、漫画のように唇を御手杵のものとくっつける。キスと言うものらしい。
「俺はこれがもらえればいいから、後はお前の好きなやつにたくさんしてやれ」
俺はそう言うと湯飲みの中の茶をぐいと飲み干し、立ち上がった。
後ろ手に手をヒラヒラと振った。
次の瞬間、手がぐいと引かれた。
後ろを振り向くと、御手杵の顔があった。鋭い目つきで俺を見ていた。
御手杵の顔はどんどん近づいて。
「んむっ!?」
いつの間にかキスしていた。しかも先ほど俺からやったような軽く触れるものではない。
御手杵は俺の頭を持ち半ば強引に自分の口に押し付けるように、舌を入れてくる。舌は俺の歯茎、舌、口内のいたるところをじっくりと嘗め回していた。
口の端からは飲めなかった唾液がタラと滴る。
「ん……っうんむ……」
「んっ!んあぁっ……!」
長い時間の口淫を経てやっと御手杵は俺から手を離す。
「俺はな!」
御手杵が俺の肩を持つとじっとこちらを見た。
***
一瞬何を言われたのかわからなかった。
が、しかし。その文言を理解した瞬間に俺は立ち去ろうとする正国の手を思い切り引いていた。
何か勘違いをしているようだ、と思う前に、去っていくのが堪らなくさびしかった。
「な……なんで」
正国は口の端から滴った唾液を拭いつつ俺に聞いた。
「だ、だってお前好きなやついるんだろ?」
「あぁ、いるぜ」
俺はそこでひとつ息を吸い、そして吐く。
正国の肩を持ちながら、正国をじっと見つめた。
「俺はお前がずっと好きだった」
その一言を何ヶ月も言おうとしていた。まさかこんな形になるとは思っていなかったが、この際全部言ってしまおう。
「俺はあんたの笑顔を見ると心が安らぐし、ずっとあんたと、それこそ出陣だろうが遠征だろうが内番だろうがずっと一緒にいたい。あんたと離れるのは嫌だし、あんたが誰かと笑顔で話しているのを見たら胸が痛くなる。そして、あんたの笑顔が見られたときは堪らなく、とても、最高に嬉しい!」
正国の瞳からは一筋、また一筋と雫が零れ落ちる。
「俺も……お前と同じこと思った」
「え」
「御手杵の笑顔を見るとなんだか心が安らぐし。なんだかずっと御手杵といたい。御手杵と離れるのは嫌だ。御手杵の笑顔が見られると、とても、すごく、最高に、俺も嬉しんむっ!」
堪らなくなって俺はおもわずまた正国にキスをした。
「ん……はぁ、む……んうっ」
正国の瞳はまるで初めてを奪われる処女のように潤み、頬を赤く染めていた。唇を離すとへたりと正国は座り込んでしまった。
「お、てきね……な、なんか」
「ん?」
「身体が……熱い……」
よく見ると、正国のモノは服の上からでもわかるぐらいに勃ち上がっていた。
「これ……なんとかしてくれ……」
上目というよりは発情のほうが近いだろう。そんな目線で俺を見上げる正国。
「それ、どうにかして欲しいか? 恋人同士がやる方法でな」
意地悪く、そう答えた。きっと
「ちゃんとお願いできたらな」
「したい……。お前と……したい」
それを聞いた瞬間、俺の中で何かがぷつり、と切れた。
腰の抜けた正国のジャージのズボンを脱がせる。そこには褌を濡らしながら屹立するモノ。
「んっ……」
俺が褌越しにモノを嘗めると雄の匂いが鼻腔を撫で、舌に雄の味が伝わる。
「あんた、キスだけでこんなに濡らしてんのか」
「そ、それはあんたが……」
顔を背かせ、口を拗ねた子のようにとんがらせる。
「あんな深い口吸いするからだよ」
「まぁ今からすることは口吸いよりもすごいことぞ」
「知ってるぜ、前の主が持ち主だったときに散々見せられたからな」
「なら好都合だ」
俺は褌をずらす。立派なモノが現れた。
それをぱくりと口に含んだ。
含んだ瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの雄の匂いが鼻へと刺さる。だが俺は動きを止めなかった。
正国のモノの裏筋を、カリを、尿道口を、舌先、真ん中、喉全てを使い嘗め回した。
「んあっ、ひゃう……あっ、あぁあああ!」
最初は声を出さないように我慢していた正国だったが、時間が経つにつれ我慢できなくなり嬌声をあげつづけていた。
「やっ……もうあっああっ! イかせてっあっ!」
「まだ出させないぜ、始まったばかりなんだからな」
数ヶ月溜め込んでいたこの気持ち、これを全てぶつける。俺の好きだという気持ちのすべてを。
俺はモノの根元をギュッとおさえつける。
「え、なんでっ!? うそっあっあっあああっ~~!!」
反るように背中をしならせびくびくと痙攣するも、モノからは何も出てこない。
「あっ……やだ」
「やだって言う割にはお前のモノは元気だけどな」
そう言ってモノをゆっくりと扱く。
快感を享受するには十分だが、イくには足りない刺激。
「あんっおてぇ、きねっもっとはやくうっ」
「焦らすなって、まだ始まったばかりだぞ?」
俺はジャージのポケットに入れたままだった団子串を取り出す。
「わがままな正国にはこれだ」
それを尿道口へ近づけた。
「えっなにそんっれぇ」
「正国が失神するくらい気持ち悦いやつだ」
俺は思い切り尿道にその串を刺した。
「んぎっぃいいいいいいいいあああああああああっっっ!!!!!!」
白目を剥き泡をふく正国。だがここでトんでもらっては困る。俺はその串を出しては引き、出しては引きを繰り返す。
「あああっいいいぎいいいだぁあああっっああ」
「まだまだこれからだぜ、正国?」
そうして俺と正国の情事は夜月が天頂をゆうに通り越すまで、続いていた。
***
気づくと、御手杵の顔が眼下にあった。
「お、気づいたか」
どうやら俺は気を失ったようだった。御手杵は俺の胸や首いろいろなところに吸い付いていた。
「なにしてるんだ?」
喉からは自分のものとは思えないほど掠れた声が出てくる。御手杵との最中に声を出しすぎただろうか。
「こうやって痕をつけてるんだ、正国は俺のものだ、ってな」
チュ、と音が聞こえるたびに快感が少し背筋を駆け上がりため息が、はぁっ、と漏れる。
「別にそんなことしなくても……んっ」
「俺がしたいだけだよ……チュッ」
俺はそんな御手杵の様子をじっと見ていたが、夜も更けているのだろうか目蓋が閉じかける。
「まぁ無理させちゃったからな、疲れただろ」
御手杵は痕をつけるのをやめ、俺の頭の下に腕を置いた。一期が粟田口の短刀達に良くやっている腕枕とか言うやつだろうか。
「お休み、正国」
「あぁ……お休み御手杵」
そう言うや否や、限界に達したのだろう目蓋が閉じ、開いた襖から見える月は暗くなり、思考は闇へと沈んでいった。
次の日、大変なことが起きるが、それは恋人同士となった今の俺らには関係がないことだった。